「何してるん」

「……散歩してて……それで……」


会話をしている。
それを意識してしまうせいで滑らかに話せない。
それでも彼女は、思い切って隣に座った。
彼はそれに肩を跳ね上げると、彼女に少しだけ背を向けた姿勢になる。
ほんの僅かであれ、肩という壁が必要に感じた。
でも、完全に隔ててしまいたくもなかったので、膝でも立てて、あたかも今から読書の続きをする雰囲気を出してみる。
まるでずっとここで読んでいたかのような空気を、作ろうとする。
しかし、一文字も目に飛び込みやしない。


「何読んでるの……?」

「え!?」

「え!?」


本の事を聞くだけで、そんな大きな声を出されてしまうなど思いもしなかった。
こんな声を聞くのも、初めてだった。


「いやこれは……これは別に……」


何て言えば、馴染みがあるようになるのだろう。
地球環境をよくするための本などと説明して、果たして女子が惹かれるだろうか。
違う。
そもそも惹かれようなどと何故思っているのだろう。
自然を装う術を高速で見つけ出そうとしている時、彼女の体が後ろに傾いた。


「その水、一緒だ。美味しいよね、私も買ったんだ」


ペットボトルの天然水を取り出した彼女だが、この場の空気をどうにかしたいと思っているのが分かりやすかった。
その時、声も無く笑う顔が、可愛いと感じてしまった。


「すぐ、温なったけどな……」

「そんなところに置いてるからだよ」


何も言い返せない彼は、僅かに残ったそれを掻っ攫うと一気に飲み干し、流れるようにボトルのラベルを剥がしてポケットに丸めて仕舞う。
その動作の目的を察した彼女は目を見開いた。


「君は外でもそうなんだね?」


彼は咄嗟に振り向き、目を瞬く。
そしてようやく、自分の普段からの癖に気が付いた。
徹底してゴミの分別に努める彼は、学校でもプラスチックゴミを回収する程だ。
学校ではどうしても、燃えるゴミか、缶とペットボトルが一つになった定番の二パターンのゴミ箱しかない。
授業の内容と現在に全く追いついていない事を、遥か前から気にしている。
そんなところを、彼女にもずっと見られていたという事だ。


「今時、当たり前やろ……」


照れ隠しするように川の方を向きながら、言い終わりが静かにしぼんでいく。
暫く間が空いたこの時、彼女は、自信が無さそうな彼の発言に自分を重ねた。



 彼がSDGsについてよく意識している事を知っており、行動にも滲み出るそれはクラスでもいい意味で笑われている。
しかし彼は、笑われる事をほとんど気にせず、必要だと信じてやって見せる。
その姿が素敵に思えた。
なのに、今見せるその顔は一体どういう事なのだろう。