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やっと本を読む気になったのはいいものの、どうも集中ができない。
あまりに寝すぎてしまい、頭が働かなくなってしまったのだろうか。
しかし早く読んでしまい、読後感に浸りたい気持ちも押し寄せる。
彼は、体調と心のアンバランスに溜め息を吐いた。
何故こんなに集中が乱れてしまうのか。
何だか背中も擽ったい気がすると、なんとなく手が届くところまで腕を回してみた時――歩道から見下ろす彼女と目が合った。
同じように驚いているのが一目で分かる。
白いブラウスが暑そうだが、そのスタイルが同い年とは思えない程に大人びていた。
それは、髪色も影響しているのだろう。
その隙間から垣間見える控え目な耳飾りも、清楚な感じを醸し出している。
無言の中、彼女は、振り向いたまま姿勢を変えられない彼が可愛く思えてならなかった。
だが、彼女もまた次の一歩が踏み出せずにいた。
何せ、ずっと遠くから想ってきた相手だ。
立ち位置に差があるとはいえ、真正面から向き合うのは初めてで緊張する。
不思議な巡り合わせに思えてならなかった。
大して時は経過していないだろう。
それでも、見つめ合う時間は長く感じた。
彼は視線をようやく左右させると、背を向けてしまう。
何も見なかった事にでもするつもりかと、彼女は目を僅かに見開く。
何も言ってもらえなかった、ではない。
何かを、自ら言わねばならない。
数十秒置いて、彼女は石段を静かに下りていく。
白い自転車に目を向けてから、日陰を目指して躓かないように慎重に下る。
彼が気配を感じているのが、分かる。
肩がガチガチに上がっていて、首も回らないようだ。
見ていて面白いが、近付くにつれて彼女も胸が弾けそうになっているのは、似たようなものだ。
それでも、そこに行きたかった。
もう、逃げたくなかった。
甘い香りがたちまち、彼の鼻の奥を優しく擽った。
家でも、ここの植物からも嗅ぎつける事のない、優しい香りだ。
この場の日陰を満たそうとするそれに合わさるように、胸の辺りから放出される熱に動揺してしまう。
話した事のないクラスメートが、何故こんなところで地味に居座っている男に接近するのだろうか。
目のやり場に困り、顔を上げられない。
だが、距離を取ろうとは思わなかった。
こんな日のこんな時間に一人でフラフラしている彼女が、気になった。
「何……」
「それ……」
しまったと、彼女は咄嗟に口を押さえる。
こういう時はどうすればよいのだろうかと、せっかく出した声が引っ込んでしまった。
その様子を黙って捉える彼もまた、視線を泳がせると、出方に迷う彼女を改めて見上げる。