友達の家で勉強会をしてくる。
そう言って家を出れば、家族は安心した顔で見送った。
でも本当は、そんな風に付き合える友達はまだできていない。
できないのかもしれない。
何せ、自信がなかった。
また、除け者にされやしないかと恐れて、控え目な付き合いしかできなくて高校二年を迎えた。



 この地で二度目の夏。
程良く都会で、程良く田舎であるここに、高校入学に合わせて越してきた。
自然が多い田舎が好きだけど、買い物がしやすい都会も捨てがたい。
そのどちらも併せ持つ父の地元が、ずっと前から好きだった。
いい散歩道があり、どこまでも、いつまでも歩いていられる。
そんな心地よさが、今日の暑さや汗ばむ不快感を吹き飛ばしてくれる。
このまま、吹き付ける草木の香りを乗せた風と共に、暑さも、中学時代の出来事も何もかも、吹き飛ばしてくれればいいのに。



 バッグから取り出したペットボトル飲料は、先程買ったばかりでまだ冷たい。
柑橘系の爽やかさを含む美味しい水は、冷えている方が断然いい。
少し飲んでから、それを首元に当てて体温を一気に冷やしていく。
快適のあまり、自然と息が漏れた。
その顔を優しく、ベージュブラウンの髪が撫でる。
視界に緩やかに、長く通過していった髪を、いつか酷く憎んでいた。
ブラック校則による古傷が、環境が変わってからでも心を少し疼かせる。



 散歩道を刻む歩幅が狭まると、足取りが少し重くなった。
頭はまた、こんなふとした時に過去にタイムスリップしてしまう。





 生まれつき髪色が人よりも明るかった。
両親は日本人で髪色は特に似ておらず、自分だけが特別な色をしている。
幼少期はこれに対して刺激を受けた事はなく、愛でられたものだ。
しかし小学校に入学して初めて、校則として髪色を気にされるようになった。
地毛証明というものを提出するのに、両親もつい面倒くささを口にしていたものだ。
一体、娘の髪色が学校や学力に何の影響があるのやら、と。



 手続きの面で、両親や、味方をしてくれる周囲の大人達が面倒を漏らしていても、子ども同士では大して重要ではなかった。
人形みたいと可愛がられたり、着る服はどれも着こなせて羨ましがられた事もある。
卒業するまでずっと、理解を得られていた。



 しかし、中学に上がって環境が変わった。
学校は今時、相変わらずかと言われるような校則があり、風紀検査が定期的に実施された。
非行に走って染髪をする生徒も中にはいたが、もともと明るい色をする自分は中学になっても地毛証明を提出する事で、煩く言われる事はなかった。
それに、同じ小学校だった友達も事情を知ってくれている。
そのお陰で、和気藹々と中学生活を送れていた――はずだった。