「君が一生懸命やるみたいに、私も、誰かの為に一生懸命になってみる」

「……急にどうしたん」


あまりに真剣な顔で訴えてくるものだから、つい笑ってしまった。
それに、しまったと、目を逸らしてしまう。
だが彼女も釣られて、花が風に揺れるように柔らかく笑い声を溢した。


「急にじゃないよ」


ああそうかと、彼はその言葉にこめかみの辺りを掻く。
これまでの会話が、彼女を変えたのだ。


「君がいれば、美味しい空気が吸えて、川も海も透明で綺麗になるんだって思う。
そうすれば絵を描きたくなれるし、写真を撮りたくなれる。
詩や物語を書きたくなれて、もっと長く、ずっとここで生きていたいって思える……」


彼は、彼女の大き過ぎるスケールをした想いを受け止め切れず、眼球の震えまでもをはっきりと感じる。
気温を上回っているに違いないと思う程に、熱い。
顔を隠したくても、体は動かなかった。
ただ、目の前の彼女を見るだけで精一杯だった。



 一体何を言っているのだろうと、彼女は一瞬目を逸らす。
でも、心地よかった。
こんなに素直になれるのは、彼自身にちゃんと真心があるからなのだろう。
引っ込んでばかりいないで、彼と同じように愛をもって、誰かに接したい。
大切な人と、想い人と長く、心地よく世界で生きられるように。


「ねぇ、他には?」

「……何が」

「もっと何か教えてよ。考えてる事」


彼女は前のめりの姿勢のまま、すっかりリラックスして頬杖をつく。
大人びて見えると思いきや、似たような悩みを抱えて暗い顔をする高校生になり、今では欲しいものを見つけた幼い少女に化ける。
様々な姿を見せる彼女に、夢中になってしまう。
本当ならもう立ち去るところだ。
何せここは、平凡で蒸し暑い堤防なのだから。
それでも、まだここに居たかった。
彼女となら、もっとここに居てもいい。


「せやなぁ……」


この時間や気持ちが、感覚が、継続する事。させる事。
彼はそんな、独自の十八番目のゴールを口にはせず、知っている事をつらつらと話していく。
彼女はどこへも行かず、ずっと楽しんでくれた。
楽しんで、のめり込んでくれた。
初めて、勝手にだが、達成感を覚えた。
でも、まだ終わらない。
終わらないようにずっと、いつまでも。