「いいね……私も何か、そういう、誰かの為になる事をしたいな」

「仕事は大体そうやん。何でもやれば?」


そうに違いない。
ただ、彼女はもっと直接的なアプローチができるものを思い浮かべていた。
人を恐れるところがありながら、真逆な世界の事を考えている。
そうさせてくれるのは、彼のお陰だ。


「この髪のせいで、中学に最後まで行けなかった。
私は、誰かが自分と同じ目に遭わないようにするには、どうすればいいかを考えたいな」

「髪ぃ?」


彼は、彼女が不登校になった原因が頭髪に繋がる意味がすぐに理解できなかった。
彼女と話すのは今日が初めてであるが故に、染髪をしていない自然な髪であるという事実を知らなかった。
そこから話を聞き続ける内に、除け者にされてしまった弟が重なる。
それに、時々控え目になる自分とも。


「弟、フリースクール通っててな。今はそのお陰でええ顔してるけど……
なら良かったって、あんまり思われへん」


これまでの通学が、急に叶わなくなった。
日常を急変させられ、体にも異変をきたした弟は、環境を変えざるを得なくなった。
必要に応じて、適切な場所が与えられるようになった世の中は、確かに優しいのだろう。
だが


「攻撃をされたから、出て行く……私がそうだから、すごく分かるよ」


学校をただ変えるなんてものではなく、家族と決断して引っ越しをした。
そんな大移動を、どうしてしなければならなかったのだろう。
もう一度心地よく生きていく為の適切な判断とはいえ、友達と同じ学校に最後まで通って卒業する、したかったという気持ちが、まずはあった。
急にそっぽを向くようになった友達と卒業なんてと、たとえ思ってしまうような事になっても。


「今は大丈夫なん……」

「うん。ここはほら、校則が易しいから。
自由でいられる事が許されていて、いいんだ」


個々の自由が尊重された現在通う学校は、染髪や化粧が可能だ。
もちろん、過度なものでなければという条件があり、纏まった基準が設けられている。
身だしなみを整える程度が社会人と同等のものであれば、学力に直接的な影響はないという考え方を持っていた。
両親や祖父母の世代から見れば、目新しいものだろう。
しかし、その自由が逆に勉強へのモチベーションを上げていたりもする。
彼女にとって、実にのびのびと過ごせる空間だった。
真面目に恋ができるようになって、学校がようやく楽しくなってきている。
それでも


「それでもまだ、心の底からいいなって思えてない……
楽しいけどほら、ちょっとまだ、明日が怖いって思っちゃうんだ……
急に、その時は来る……」