だけど、何だかどこかおかしい気もする。
例えば彼のように、世界で掲げる目標に向き合う人が声を抑えた方がいいのだと思ってしまう世の中に、疑問を抱いてしまう。
クラスで目立っており、揶揄われる事。
それでも貫いている部分はあるが、結局全力でやれていない様子が見えるのは何故なのだろう。
「あ……ごめん……」
偉そうな事を言った。
彼女がそう思ったのならば
「いや、ちゃう」
彼女は、大事で、もっと聞かれるべき事を言葉にしたのに、謝ってしまうのは何故だろう。
考えや想いがそこにあるならば、声にすればいい。
世界はもっと、広いのではないのか。
「それでええやん別に……本間はもっと、皆そうしたいやろ」
彼は真剣な顔で川を見つめていた。
当たり前に流れていく川に、日々の中で感じる事をのせている。
弟の事が過ぎ去り、目立っているとはいえそれでも控え目になった自分が過ぎ去る。
本当はもっと、環境に関心を持たないかと周囲に言いたい。
彼女は瞬き無しに、彼の言葉を胸で両手に握り締めるように受け止めていた。
いじめを受けた中学の時、誤解を解く為の発言ができなかった。
自分が何者かを伝えようとすればする程、怖くなった。
セクシーな髪色が大人びている。
学生じゃないみたい。
誉め言葉に取れるはずのそれらが憎たらしく、髪を切り刻み、両親を泣かせた。
見た目や噂からでき上がった自分は偽りだと、声にしたかった。
自分の事をもっと、声にしたい。
互いの目がもう一度、今度は真っ直ぐブレずに合った。
それが、心の一致を感じた決定的な瞬間だった。
お互い、伝える事を恐れるというよりも、心のどこかでいつも、人を恐れているのだと。
共有ができたと思えた今、口は、自然と動き始めた。
「その本は、何で読もうと思ったの?」
「……仕事したいからかな」
どう説明しようかと、彼は宙に視線を巡らせる。
どんな仕事かと、静かに首を傾げて彼女は続きを待った。
懸命に伝えようとしてくれる様子が嬉しく、つい微笑む。
「この本は仕事のやつじゃないけど、俺がしたいのは環境保全エンジニアっていうやつで、温暖化とか、大気汚染の事を考える仕事。
汚染具合をチェックする機械とか作ったり、扱ったりする。
産業廃棄物の処理装置とか弄ったり……やな」
「……凄い……初めて聞いた」
「初めて言うし」
「違うよ。その仕事の事。まぁでも、そうだね。
将来の夢は、確かに初めて聞いた」