惜しむらくは、淡雪のごとく

 先日、梅雨入りを宣言された。

 その宣言通り、外の世界は分厚い雲に覆われており、昼間とは思えないほど、薄暗い。

 窓を閉めていても、雨の音がザーザーと聞こえてくる。

 晨はタブレットを片手にリビングのソファーに座って、ぼんやりとしていた。

 雨は、晨にあの日を思い出させ、精神的に不安定にさせる。

 それは、数年が経った今でも変わっていない。

「コーヒー、飲む?」

 不意に聞こえた声に、晨は我に返り、視線を上げた。

 そこには優しい表情を浮かべた真白が晨の様子を窺うように立っている。

「飲む」

「待ってて」

 どこかホッとしたような表情を浮かべた真白は、すぐにキッチンに向かった。

 晨はその後ろ姿を目で追い、小さく息を吐いた。

 集中力が落ちている。

 雨のせいなのか、単なる不調なのかはわからない。

 手元のタブレットには白紙の画面が映し出されており、憂鬱そうな自分の顔が反射している。

「濃い目がいい?」

「うん。でも、真白も飲むなら、好きな濃さでいいよ」

「カフェオレが飲みたいから、私も濃い目でいいの」

「そっか。じゃあ、任せる」

 晨は進みそうにないタブレットとペンをローテーブルに置き、ソファーに寝転んだ。

 シーリングライトが眩しくて、目を細める。

 右腕で顔を隠し、溜息を吐く。

 自分がどんな顔をしているか、鏡を見なくてもわかる。

 陰気で、虚ろ。

 もしかしたら、生気を感じないほどかもしれない。

 真白の抱えているものが気になる。

 聞いてはいけない。

 聞けば、傷口に塩を塗ることになる気がする。

 だけど、知りたいという気持ちが無視できなくなってきて、それは仕事にも影響し始めていた。