翌日、塾が終わって河原に向かうと紅音先輩が先に着いていた。

連絡先も知らないのですれ違うのではないかという懸念はあったが彼女の存在を見つけその悩みも吹き飛んだ。

僕が近づくと先輩も気づき"こんにちは"と挨拶してきた。美人な人は本当に狡いものだ。ただの挨拶なのにそれだけで心が踊ってしまう。

そんな自分に少し悔しさを感じながら、昨日と同じように先輩の隣に座る。

「これ、昨日は本当にありがとう、助かった」
先輩は早速と言うように座ると同時にハンカチを返してきた。

「それからごめん、昨日は返事も聞かずに帰っちゃって。」

「いえ大丈夫です。今日も来るつもりでしたから」

そう言いながら僕は本を取り出す。
これが後々彼女を自由にさせ、僕は後悔することになる。

「そう、なら良かった。彬人君はいつもここに来るの?」

「ここは落ち着くんです。」
本を開く手を止めて答える。

先輩が餌を待つ飼い犬のような表情でさらに聞きたそうにしているので続ける。

「僕の親、離婚するんですよ。だから家に居づらくて、、」

「ごめんなさい、言いづらいこと言わせて」
先輩はさっきとは打って変わって申し訳ないという顔になった。
昨日から思っていたが表情がコロコロ変わる人だ。

「気にしないで下さい、ずっと前からそうなるだろうとは思ってたんで」
自分の気持ちを正直に話したがなおも気にしてる様子だ。

「紅音先輩はどんな本を読むんですか?」

このままではまずいと思い急いで話題を変える。

「私はね、、、」

先輩は気を遣われていることを察し表情を戻して話出した。

僕たちはそれからひたすら話し続けた。

お互いの趣味、好きな食べ物、得意な科目、ありふれた内容だったがそれでも楽しい時間になり気がつけば夕焼け空になっていた。

「明日もいるの?」

そろそろ帰らなきゃと二人とも思い出したタイミングで紅音先輩が切り出す。

僕が頷くと"じゃあまた明日"と言って昨日のようにさっさと帰って行った。