「そりゃ、芸能人には芸能人なりの大変さはあるんでしょうけど、俺には何者にもなるチャンスが無かったんです」

 この時の松雪は心が拒むこと無く金結の言葉を受け入れていた。

 そして、自分がこの人を殺して、救ってあげなくてはと前向きな気持ちに切り替わる。

「俺がテレビで唯一好きなのは、よくゴールデンウィークとか夏休みとか、大きな休みに良い所の大学生が車で事故死するじゃないですか。そういう恵まれた奴が死ぬ、転げ落ちるニュースを見るのが最高に気持ちいいんですよ」

 そこまで言い切ると一つ咳払いをして気持ちの良さそうな表情をしたまま金結は続ける。

「勝ち組のボンボンが死んだ、将来俺を見下して俺の上に立つ予定の人間が死んだって。あ、自分でも歪んでるんだと思うんですけど、これは全部社会のせいですから」

 その考えは松雪には分かるような、分からないような、微妙な線上だ。確かに自分より恵まれている奴は憎く感じるが、そこまでではない。

「俺は本気で親も社会も憎いし、何より無能な自分が憎くてしょうがないんですよ」

「その気持ちはわかります」

 思わず声に出てしまった、無能な自分を殺したいほど憎む気持ちは松雪にもある。

「親に感謝するって気持ちもわからないですし、ウチは母子家庭なんですけど。理由は親の離婚です。女手一つで育てたって言われても『何それ』って感じですよ。あのババアがクズに騙されて結婚しなければ俺はこんな思いをしなくて済んだのに……」

 ひょうひょうと話していた金結が初めて悔しそうな顔をして机を叩いた。思わず松雪はビクリとする。

「俺は空っぽの人間なんです。才能も、努力する気力もない。人に誇れる経歴もない、この歳でこれです。詰んでるんですよ人生」

 その言葉はまるで自分に向けられたようで、これ以上金結の言葉を聞きたくなかった。

「人は生きていればそれだけで良いなんて俺は考えちゃいません、生きるだけなら猿でも虫でもできるじゃないですか」

 そこで金結の言葉が詰まり、静寂が訪れる。

「なんていうか、上手く言えないんですけど……。良く生きなきゃ人じゃないんですよ。ただ生きるだけなら猿でも虫でも出来る。俺はもう疲れたんです、だって負けが決まってる人生を生きる意味ってあるんですか」