「松雪様には私の代理として、『待ち人』と呼ばれる死を望む人間を5人、死へと導いて頂きます」

 サハツキが言う言葉は松雪の想像とはかけ離れていた。

 死へと導くとはどういう事だろうか。

 松雪は頭の中では饒舌だったが、もともと口下手な事と、サハツキという女の妙な貫禄と、この白く目に優しくない空間に圧倒されて言葉が何も出せない。

 少し、息苦しさも感じていた。

 松雪は深呼吸をした、普段は無意識でやっている呼吸が上手く出来ない。

 そうだ、あと5秒数えたら質問をしようと決める、しかし何を聞けばいいか。

「何をすれば良いんですか」

 それを言うのが精一杯だった、松雪が必死に出した言葉にも表情1つ変えずに淡々とサハツキは話し続ける。

「ここには松雪様と同じく、死を望む者が訪れます。その者たちの中から5人に死を与える事。それが、松雪様にお願いしたい条件です」

「それは……」

 真っ白な空間の視覚的なものだろうか、それとも頭が追いついていないか、そのどちらもか、松雪は目眩で頭がくらくらしていた。

「私は死への案内人であり、直接人の命を奪うことは許されていません。ただし私に助力下さり、条件を満たした方のみ苦痛なく死を与えることができるのです」

 サハツキが何を言っているのか半分も理解が出来なかったが、松雪は必死に頭の中で次の質問を考える。

「あの、その、もっと詳しく教えて下さい」

 人を殺すことはしたくないが、苦痛のない死というものは松雪にとって甘美な響きだった。

 もしかしてこれが自分の惨めな人生を終わらすための最後のチャンスなのかもしれないと。たとえ夢だと思っていても聞かずにはいられない。

「はい、簡単な条件です。ここには松雪様と同じく死を望むものが訪れます。彼等の死を望む原因と死への捉え方を聞き出して下さい。私にはそれが出来ませんので」

 要はカウンセラーのように死にたくなった原因と、死をどう思っているのかを聞けということかと、時間を掛けて松雪は理解が出来た。

 だが、どうやらまだ続きがあるようだ。

「彼等の考えを松雪様が充分に聞き終えた時。首元に黒い手形が浮かび上がりますので、そこに手を置いて彼等の首を絞め殺して頂きます」

 この女は何を言っているのだろうと松雪は思った。自分に人殺しになれと言っている、しかも自分の手で他人の首を絞め殺せと。

 馬鹿げていると思った、夢は自分の潜在意識だと聞いたことがある。ついに自分は頭がおかしくなって無差別殺人をするのだろうか。

 動機は「夢でお告げがあったから、死ぬためにやった」だ。

 だが、確かに精神鑑定で引っかからなければ、れっきとした異常者、殺人犯として死刑になるだろう。

「ご心配召されませんよう。この空間は人の世とは隔離された場所です。ここで何が起きようとも誰もあなたを罪に問えません」