椅子に座る松雪の前に居るのは、肩までかかる黒髪の青年だった。

「こちら待人の九路(くろ) (はじめ)様でございます」

 九路と呼ばれた青年は満面の笑みでこちらを見ている。

「九路様、こちらは執行人の松雪総多様です。先程ご説明した通り、今から九路様には死を望む理由を松雪様におっしゃって頂きます」

「九路です。よろしくお願いします」

 とても元気のいい声で青年は言った。

「どうも、松雪です」

 それとは対照的に松雪は小さく返す。

「では、最後に……。もしも、気が変わった場合はあちらのドアを開けて外へ御出になって下さい。その場合、二度とこの部屋で死へ導かれる事はありません」

 言い終えると、二人を見てサハツキはお辞儀をする。

「それでは私は失礼します、どうか良い結果になるよう祈っております」

 そう言ってサハツキはいつもの様にドアを開けて外へ出ていってしまった。

「えーっと、九路さん。あの、どうして九路さんはここへ」

 何か良い事でもあったのだろうか、ずっとニコニコしている九路に松雪は疑問を持つ。

「えぇ、俺は目的を果たしたので、もう死んでも良いかなって思いまして」

「目的ですか」

 一体、何のことなのだろうかと松雪が思うと同時に九路が質問をする。

「松雪さん、松雪さんってここで人の首を絞めて殺したことがあるんですよね」

 思わず松雪はドキリとして、言葉を失う。心臓が早く脈打ち、苦しくなってきた。

「え、えっと、まぁ」

「人、殺したんですね」

 笑顔で九路は言う、思い出したくない記憶を掘り起こされて松雪は不機嫌になった。

「俺と、一緒ですね」

「えっ」

 その言葉に松雪は耳を疑う。この目の前に居る青年は人を殺したのかと。

「ど、どういう事ですか」

「ありきたりですけど、復讐ですよ復讐」

 そう言って九路はテーブルに置かれた紅茶に手を伸ばして、啜ってから言った。

「今、俺は最高の気分なんですよ、同時に虚しい最低の気分でもある。聞いてもらえませんか、俺の話を」

 死を望む人間に相応しくないようなキラキラした目をして九路は話し始める。