「大人になって、就職をしたんですが、そこで僕は……」

 そこまで言って、溜めてからまた言葉を出す。

「また、人間関係が上手くいきませんでした」

「それは、どうしてですか」

「えーっと、僕の病気のせいです」

 何でもかんでも病気のせいにするなと、ちょっと松雪は思っていたが、言わないでおく。

「例えば、僕は聞き取れなかったことや、分からなかったことにも、どうしても、条件反射で『はい』って答えてしまうんです」

「えっ」

 どういう事だ、分からないことにも『はい』とは。

「後は、物忘れも酷いし、人の気持ちが分からない。人の気持ちを考えろって小さい頃から先生にも言われてました。僕も必死に人の気持ちを考えました。でもそれは全然見当違いで余計に怒られるんです」

 また小田は泣きそうになりながら言った。

「会社では『クズ』だとか『バカ』だとか『使えねー』って言われてました。それで辞めてしまいました」

 松雪は、それは酷い話だと思うと同時に、努力が足りないんじゃないかと思ってしまう。

「その、病気って治らないんですか?」

「治りません。精神病って言われてますが、前頭葉の異常です。僕は脳の大事な部分が機能していないんです」

「脳が……、ですか」

 脳の病気と言われても、思い浮かぶのは知的障害者だけだった。小田は会話は出来るし、そんな感じには思えなかった。

「それで、うつになってしまい。精神科に通っている内に統合失調感情障害という病気、ASDといった病気も見つかりました」

「病気が分かって、スッキリしただとか、モヤモヤが晴れたって言う人も居るらしいですが、僕は違いました」

 小田の言葉に松雪は聞いてみる。

「違うと言うと」

「あぁ、僕は欠陥品として産まれたんだ、今までの大変な人生も、そしてこれからも、病気のせいで惨めで辛い思いをして生きるんだって」