産まれてきたことが失敗だった、というか失敗作として産まれてきた。

 人と比べておかしい事に薄々気付いてはいたものの、正体不明の何かから、逃げて、逃げていた、どこにも逃げ道なんてないのに。

 二十歳を過ぎて何となく感じていたおかしさは医学的には病気だということを知った。

 お医者様の言うことに僕は『ASD(自閉スペクトラム症)』『統合失調感情障害』という病気だった。

 ここから先は自分を客観的に見た憶測だけど、他にも色んな精神疾患を併発しているんだと思う。

 精神障害の診断を受けて「自分が人と同じ様に出来ない原因を知ってスッキリした」という人も居るらしいが、僕の場合は別だった。

「あぁ、僕は生まれながらにして惨めで悲惨な人生が決まっていたんだな」と思った。そう思うと今までの人生にも納得がいく。




 そして、その人生が、今日、終わる。

 素晴らしいことだと思いませんか?





 金結という男を絞め殺してからは、変な夢も見ずに松雪は暮らしていた。

 相変わらず自分が死ぬことも無ければ、周りの環境が変わることもない。

 そんな日々を送って一週間が経った。

 デザインナイフが刺さった太ももの傷はかさぶたになり、傷が治ると共にあの日の記憶も薄れていく。

 深夜の仕事を終えると、容赦のない陽射しを浴びた。

 自転車を漕いでまたアパートまで戻る。

 カーテンを締め切っているので薄暗いそこは居心地が良かった。

 明日は休みだ。特に何をするでもなく、シャワーを浴びて食事を摂る。

 スマートフォンで動画を見ながら横になっているといつの間にか寝てしまっていた。




 目が覚めた瞬間。松雪はハッとし回りを見回した。

 白と黒だけの空間。見覚えがある。

「お待ちしておりました。松雪様」

 目の前に居るのは、白い肌と黒いドレスの女。名前は確か……。

「さ、サハツキ……さ……ん?」

「はい、サハツキでございます」



 病的な白い肌と抑揚のない話し方。あの時の事が次々と頭の中に流れてくる。

「突然のお呼び出し申し訳ありません。待ち人の方が現れましたので、執行人として松雪様においでいただきました」

 これは所詮変な夢だ。夢なんだと変に頭が冴え渡っている自分に言い聞かせる。


「早速ではありますが、ご案内致します」

 目の前の景色がねじれる感覚。ぐるぐると天と地が廻り、光が尾を引いて閃光している。