彼の顔を見たとき。姫子の頭の中に封じ込めていた記憶がぶわっと溢れ出てくる。
 
 あれは、両親が亡くなる前。まだ、ずっとずっと幸せだった頃の記憶……。
 
「どうやら、ようやく思い出したようだな」
 
 しかし、彼の態度は何処か腑に落ちない。
 
 姫子の知る彼は、物腰柔らかで、穏やかな人。決して、こういう風に上から目線で物事を言う人ではなかった。
 
 だからこそ、戸惑う。
 
 彼は、自らが知る月橋 和史なのだろうかと。
 
(……でも、あれから八年も経っているの。私が変わってしまったように、きっと和史さんも変わってしまったんだわ)
 
 ゆるゆると首を横に振って、考えを振り払って。
 
 姫子は和史を見上げた。彼の美しい目が、姫子を射貫いている。
 
 心臓がどくりと大きく音を立てて、不思議な感覚に落としてくる。
 
「と、いうわけだ。そして、姫子の所有権は俺にある。……わかるな?」
「……はい」
 
 先ほども言った通り、今の姫子は和史の所有物のようなものだ。
 
 彼がどれだけのお金を借金取りに払ったのかは知らないが、あの反応からするに、かなりの大金であろうことは予想出来る。