「さて、これでお前の所有権はあの男たちから、俺に移った」
「……ぁ」

 男性が姫子の手首をつかむ手に、力を込めた。痛くはない。でも、逃げられないと悟らせるには十分すぎる力だ。

「とにかく、ついてきてもらおうか」
「あ、あの、あのっ!」

 このまま流されて、いいのだろうか。

 頭の中に浮かんだ疑問。それに従うように、姫子は男性に声をかける。

「その、どうして、私のことを助けてくださったのですか……?」

 それに、多分ではあるが。あの巾着の中にはお金が入っていたのだろう。そうじゃないと、借金取りが素直に引くとは考えられない。

「どうして? お前はおかしなことを言うんだな」

 彼は姫子の疑問をおかしなことと言うが、かなりの大問題であろう。

 そう思うのは、姫子だけなのか。

「お前は朝霧 姫子だろう? それだけで理由は十分だ」
「……っ」

 どうして、彼は姫子の名前を知っているのか……と、疑問を抱くとほぼ同時だった。

 男性が、姫子の顔にぐっと自身の顔を近づけてくる。その黒曜石のような目が、姫子を射貫いた。

「それとも、お前は俺のことを忘れたのか?」
「……ぁ」

 自然と声が漏れた。

「忘れたならば、思い出させてやろう。俺は――月橋(つきはし) 和史(かずし)。お前の、幼馴染だろう?」