「だから、お前はその女を離せ。巻き込まれたくなかったら……」

 借金取りが必死に強がっている。姫子にはそれが嫌と言うほどにわかってしまう。

 そりゃそうだ。目の前で仲間がやられたのだ。怖がるなというほうが無理だ。

「……それくらいか。なら、とりあえずこれを渡そう」

 けれど、男性の言葉にすぐに現実に戻ってくる。

 男性は懐から出した巾着を、借金取りに投げつけた。

 借金取りが、巾着を開く。……そこになにが入っているのか。生憎姫子からは見えない。

「残りは邸宅に取りにくればいい。……そうだな。俺は日中は留守が多い。来るならば、夕方以降だ」

 冷え切った声で男性がそう告げれば、借金取りはさっさと早足で場を立ち去った。もちろん、やられた仲間を担いで。

「……あの」

 借金取りが立ち去って、姫子は控えめに男性に声をかけた。

 まずは、助けてくれたお礼を言うべきか。頭の中で思案していると、男性は「全く」と呟く。

「邸宅の住所を聞いていないだろうに。……本当に、せっかちなことこの上ない」

 小さくそう呟いて、ため息をつく。

 その後、彼がちらりと姫子を見る。その目の鋭さと冷たさに、姫子は一瞬恐怖を抱く。