「この女は、俺が連れて行く」

 そして、男性ははっきりとそう告げた。

 意味が分からなくて、姫子はぽかんとする。いや、借金取りの男性たちも呆然としているようだ。

 ……それに、少しだけ安心できた。

(このお人は、お二人の仲間ではないのね……)

 が、それならば今度は違う疑問が浮かぶ。どうして、この男性は姫子を助けようとしているのだろうか。

「おい、勝手なことをされたら困るんだよ!」

 借金取りの一人が、男性に掴みかかる。危ないと思って、咄嗟に姫子は目を瞑った。

 ……でも、聞こえてきたのは借金取りのほうの悲鳴。それと、誰かが地面に倒れるような音。

「俺はなにも、この女をただで引き取ろうとしているわけではない。……どうやらお前らは大層せっかちなようだ」

 静かな抑揚のない声。心臓が縮こまるような、恐ろしさも感じさせる。

 ……だけど、どうしてなのだろうか。

 姫子は彼を知っているような気がしてしまうのだ。

「ところで、この女の作った借金はいくらだ?」

 男性が、もう一人の借金取りにそう問いかける。彼は若干震えた声で、金額を紡ぐ。

 【一万円】と。