(身売りなんて……いやだわ。けど、一生借金に苦しむのも……いや)
 
 どうにか、別の解決策はないか……と、姫子が思考回路を動かしていたとき。ふと、こちらに誰かが近づいてくるのがわかった。
 
 聞こえてくる足音は、上質な靴の音。周囲が一瞬で、様変わりするような感覚。
 
「こんなところで取り立てなど、迷惑だ。……すぐに何処かに行け」
 
 地を這うような低い声が耳に届いた。姫子が身を縮める。対する二人の男性は、その人物の態度が気に食わなかったのだろう。
 
 すぐに突っかかるようなそぶりを見せていた。
 
「偉そうな態度だな。こっちは生活がかかっているんだよ。この女に貸した金を回収しないことには、生きてけねぇんだ」
「そうか。だが、俺にとってはお前らが生きていこうが、野垂れ死のうが。知ったことではない」
 
 二人の男性のそばを通り抜けて、その人物が姫子の前に立つ。
 
 すらりとした体躯。高い背丈。恐る恐る見上げる顔は、逆光になっていてわからない。
 
「ひゃっ」
 
 その人物が、姫子の手首をつかんだ。
 
 驚きと恐怖から、さらに身を縮める。その人物は、男性のようだ。……いや、元々わかっていたことではあるのだが。
 
「あ、あの、なに、か……」
 
 どうしてこの男性は、姫子の手首をつかむのだろうか。
 
 様々な疑問が頭の中を駆け巡って、出てこない答えに戸惑う。
 
 じっと目を凝らして、男性の顔を見ようとするのに。……やっぱり、見えない。どうしても、逆光になっている。