雪下の花嫁①~再会した花嫁は恋に買われる~

 正直、使用人たちから和史の話を聞けば聞くほど、彼が心配だった。彼は寝る間も惜しんで働いている。月橋家の事業をいくつか引き継いでいるのに合わせ、どうやら自らもいくつかの事業を立ち上げているらしい。

 それを聞いた姫子は、卒倒しそうだった。だって、そうじゃないか。

 いくら和史が有能だったとしても、彼一人では限界があるのだから。

(だけど、余計な口を出すなと初めにくぎを刺されてしまったもの。私は大人しくしていることしか出来ない)

 姫子は和史に従うしかない。だって、自分は彼に借金を肩代わりしてもらったのだから。逆らうことなんて、出来っこないのだ。

「かといって、いきなり女性を連れてきて、ほったらかしというのはいかがなものかと」

 いすずが何処か怒ったような声でそう呟く。彼女の言葉も正しい。

 姫子はここにきて十日。ほぼずっと放置されている。

 食事を共にするどころか、顔を合わせるのさえ朝だけだ。婚姻前なので寝室が別なのは当然ではあるが、もう一緒にいる時間が欲しいとは思ってしまう。口には決して出さないが。

「姫子さまも、不満があればなんなりとお申し付けくださいませ。和史さまは気が利きませんので」

 淡々と告げられたいすずの言葉に、姫子はぽかんとしてしまった。

 だって、姫子の記憶の中にある和史は。誰よりも気を遣ってくれて、周りを見ている人だったのだから。