雪下の花嫁①~再会した花嫁は恋に買われる~

 じっと俯いていれば、もう片方の手で強引に上を向かされた。

 結局和史から視線を逸らせなくて、姫子は彼と見つめ合う形になる。まるで、時が止まったかのような感覚。

「……か、ずし、さん」

 唇が和史のことを呼ぶ。瞬間、彼の顔が近づいてきて――姫子の唇に、なにかが触れた。

 驚いて目を見開く。逃げようとする。けれど、上手く行かない。片手を和史に掴まれている所為で、逃げられなかった。

(……これは、口づけ)

 どうして、彼がこんなことをするのだろうか……?

 姫子の頭が混乱する。

 しばらくして、和史の顔が離れていく。視界に映る恐ろしいほどに整った美しい顔。

 ……自然と息を呑んで、姫子は唇を震わせる。

「ど、うして……」

 口からそんな言葉が零れる。和史はなにも言わない。

「どうして、こんなことをなさるのですか……」

 自分の声が明らかに震えている。胸の奥底からこみあげてくるのは、悔しさにも似た感情だった。