雪下の花嫁①~再会した花嫁は恋に買われる~

「別にいい。顔を上げろ」

 しばらくして、彼がそう告げて来た。姫子はそっと顔を上げる。彼の黒曜石のような目に、見つめられた。

「変わらない者など、いないんだ。……それくらい、分かっているんだがな」
「……え」
「……気にするな」

 彼がゆるゆると首を横に振る。言葉の意味が分からずに、姫子はただただぽかんとした。

 さらに、和史が姫子のほうに一歩を踏み出してくる。自然と逃げ腰になってしまって、身を引いた。

 片方の手が棚に触れる。もう片方の手を、和史がつかんだ。

「あ、あの……その」
「別に、他意はない」

 彼がはっきりとそう告げる。……そんなはずない。他意もなければ、こんな風にすることなんてないだろうに。

「は、なして、ください……」

 震える声でそう伝える。彼だって本意ではないのだ。それなのに、こんな風にされてしまうと。

 ――都合よく、勘違いしてしまうだろうから。

「……お前は、こうされるのが嫌いなのか?」

 何処か鋭い声で、そう問いかけられる。姫子は俯いた。……嫌なわけじゃない。ほかでもない、和史にされるのならば。

 嫌なわけがない。むしろ……いいや、ここからは考えないほうがいい。