「別にいい。顔を上げろ」
しばらくして、彼がそう告げて来た。姫子はそっと顔を上げる。彼の黒曜石のような目に、見つめられた。
「変わらない者など、いないんだ。……それくらい、分かっているんだがな」
「……え」
「……気にするな」
彼がゆるゆると首を横に振る。言葉の意味が分からずに、姫子はただただぽかんとした。
さらに、和史が姫子のほうに一歩を踏み出してくる。自然と逃げ腰になってしまって、身を引いた。
片方の手が棚に触れる。もう片方の手を、和史がつかんだ。
「あ、あの……その」
「別に、他意はない」
彼がはっきりとそう告げる。……そんなはずない。他意もなければ、こんな風にすることなんてないだろうに。
「は、なして、ください……」
震える声でそう伝える。彼だって本意ではないのだ。それなのに、こんな風にされてしまうと。
――都合よく、勘違いしてしまうだろうから。
「……お前は、こうされるのが嫌いなのか?」
何処か鋭い声で、そう問いかけられる。姫子は俯いた。……嫌なわけじゃない。ほかでもない、和史にされるのならば。
嫌なわけがない。むしろ……いいや、ここからは考えないほうがいい。
しばらくして、彼がそう告げて来た。姫子はそっと顔を上げる。彼の黒曜石のような目に、見つめられた。
「変わらない者など、いないんだ。……それくらい、分かっているんだがな」
「……え」
「……気にするな」
彼がゆるゆると首を横に振る。言葉の意味が分からずに、姫子はただただぽかんとした。
さらに、和史が姫子のほうに一歩を踏み出してくる。自然と逃げ腰になってしまって、身を引いた。
片方の手が棚に触れる。もう片方の手を、和史がつかんだ。
「あ、あの……その」
「別に、他意はない」
彼がはっきりとそう告げる。……そんなはずない。他意もなければ、こんな風にすることなんてないだろうに。
「は、なして、ください……」
震える声でそう伝える。彼だって本意ではないのだ。それなのに、こんな風にされてしまうと。
――都合よく、勘違いしてしまうだろうから。
「……お前は、こうされるのが嫌いなのか?」
何処か鋭い声で、そう問いかけられる。姫子は俯いた。……嫌なわけじゃない。ほかでもない、和史にされるのならば。
嫌なわけがない。むしろ……いいや、ここからは考えないほうがいい。

