雪下の花嫁①~再会した花嫁は恋に買われる~

 そう思いつつ、そっと花弁に触れる。自然と頬を緩めていれば、扉が開いた。そちらに視線を向けると、そこには和史がいる。……彼は、姫子をじっと見つめて固まっていた。
 
「……和史さん?」
 
 きょとんとしつつ、彼の名前を呼ぶ。彼はハッとして、姫子のほうに近づいてきた。
 
 そして、姫子のすぐ隣で立ち止まる。

「……お前は、変わらないな」

 和史が小さく呟いた言葉。その意味が、生憎姫子にはちっともわからない。

 だって、姫子は変わってしまった。あの頃の無邪気な姫子は、もう居ないのだから……。

「いえ。……変わって、しまいました。あの頃のような無邪気さは、今の私にはありませんから……」

 世界が善意で出来ていると信じていて、誰もが優しいと信じていた。まさに、籠の中の鳥だった。

「もう、あの頃のように無邪気に人を信じることは出来ないのです」

 花弁から手を離す。口から零れた言葉に、和史はどういう反応をするのだろうか。不安を抱きつつ、ちらりと彼を見つめた。

 彼は眉間にしわを寄せていた。唇を噛んで、まるでなにかに耐えているかのような表情だ。

「なんて、愚痴を言ってしまって、申し訳ございません。今後は、このようなことはないようにしますので……」

 愚痴なんて聞いていて気持ちのいいものではない。それくらい、姫子にだってわかる。

 彼に向かって深々と頭を下げる。彼はなにも言わない。