「月に適当な分の金はやる。それをどう使おうが自由だ」
「……はい」
「衣服など、最低限必要なものは至急用意させる。自分で用意する必要はない」
「……はい」
「というわけだ。なにか、質問はあるか？」

　和史が姫子に問いかけを促す。

　正直、彼の話を聞くのにいっぱいいっぱいだった。その所為で、問いかけることなんてわからない。

（本当に、変わってしまわれたのね……）

　ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚に襲われて、姫子は胸の前で手を握る。

　そして、ゆっくりと口を開いた。

「今のところは、なにも。……また、気になることがあれば、後日尋ねさせていただきますので……」
「あぁ、そうだな。質問は俺、もしくは先ほどの家令にしてくれ。あいつの名前は佐藤(さとう)だ」
「かしこまりました……」

　深々と頭を下げて、姫子は返事をする。

　その姿を見る和史の目は、どういう感情を宿しているのだろうか。いや、むしろ姫子に興味を持ってくれているのか……。

（助けていただいただけ、ありがたいのよ。出過ぎた真似はしない。それは、契約に含まれている）

　大人しい妻を演じて、彼の側にいればいい。それが、今の姫子に求められることなのだから……。