そう思ったら、姫子はため息をついてしまいそうになった。

 しかし、それをぐっとこらえる。誤魔化すように和史のほうを見れば、彼は窓の外を見つめていた。

 あの頃とは変わってしまった目つき。けれど、ほんの少しの面影があるのはわかった。

 ……心臓がバクバクと大きく音を鳴らす。あの頃の気持ちが、蘇ってしまいそうだった。

「……どうした」

 しばらくして、和史が姫子のほうを見てそう言う。

 ハッとして、姫子は顔を背ける。

「な、なんでも、ございません……」

 震える声で、言葉を紡いだ。

 ゆるゆると頭を横に振る。和史はなにも言わない。

 それに少しほっとしたような、悲しさを抱くような。不思議な感覚だった。

「そうか」

 和史がそう返事をしたのは、それから数分が経った頃だった。

 沈黙が場を支配して、気まずい空間が生まれる。それでも、自分から口を開くことは出来ないと思った。

(私は、彼の所有物だもの……)

 自分自身に必死にそう言い聞かせる。ぎゅっと目を瞑っていれば、ふと隣から「姫子」と名前を呼ばれた。