「怒っているわけじゃない」
「そ、うでございますか……」

 それにほっと胸をなでおろす。

 が、しかし。和史は姫子のことを『自身の所有物』と言っていた。それすなわち、姫子を利用しようとしていることではないだろうか。なにも、善意が全てで助けたとは思えない。

「……そ、その、月橋、さん」

 彼のことをどう呼べばいいかわからなくて、無難に名字で呼んでみる。

 幼い頃は、「和史さん」と呼んでいた。でも、会っていない時間が長すぎて。その呼び名を口にすることをためらわせた。

「……なんだろうか」

 和史は特別な反応を示すことはなかった。

 これでよかったのだ。心の中で自分を納得させて、姫子は少し顔を上げる。和史の恐ろしいほどに整った顔を見て、ごくりと息を呑んだ。

「……私は、これからどうなるのでしょうか?」

 震える唇から、必死に言葉を紡ぎ出す。

(月橋さんのことだから、身売りを強要するということは、ないだろうけれど……)

 かといって、やはりなにか対価を要求されるのだろう……。

 そう思う姫子に、和史は少し考え込むように顎に手を当てた。