「5月といえば、勿論あれだよな?」
5月も終盤。土屋先輩が部室で、毎度のことながらいきなり呟いた。ちなみに、部室にみんな集まっているけれど、活動をしているわけではない。ここはいわゆる、隠れ家だ。先生に隠れてゲームをしたり、ひとり静かに読書をしたり、新作のアイスを楽しんだりするのに最適な。読書をしていた土屋先輩のいきなりの発言に、アイス堪能中の鈴花先輩がいう。
「2日後に……」
「2日後に?」
土屋先輩は期待のこもった目で問うた。先輩、多分その期待は裏切られますよ。
「新作アイスの発売日!」
「違うそれじゃなーい!」
そんな声が飛び交う机の向こう、恵くんがスマホに繋いだイヤホンを耳から少し離す。
「ちょっと静かにしてくださいよ、土屋先輩。今いいところなんです」
「うっ、恵くんゲームのことになると途端に手厳しいな」
そんな声はもう聞こえていない様子。またイヤホンを装着し、スマホを弄り始める。最初の頃は、こんな優等生が学校でゲームなんて、と驚いていたけれど、今ではすっかり見慣れた光景だ。
「同意見です、笠原先輩」
ゲーム画面から全く目を離さす弥生ちゃんが言った。
「うう、仕方がない。じゃあ日向くんに聞こうかな。5月といえば?」
「えっ、僕ですか……」
私の隣でパソコンをみていた日向くんが、ちょっとのけぞって答える。
「えーっと……」
チラッとこちらをみる。私はこくっと頷いた。そう、その答えだよ。
「球技大会、ですね」
「正解!いやぁ、なんでみんな分からないかな〜」
みんなわかってるけど相手にしたくないだけですよ。
『取材するんですよね?』
私はスマホに書きつけると、部長の前に掲げた。
「ああそうだ。胡桃くんは察しがいいな!」
相手をしてくれて嬉しいのか、大声で応じる部長。
「今年のグループ分けをしておこう。という訳で」
先輩は机から、見慣れた長方形の箱を取りだした。
「なんですか?それ」
「新聞部恒例の、取材グループ分け用くじ引きだ!」
どんっと中央の机にそれが置かれると、鈴花先輩や恵くんたちも振り向いた。
「あっ、きたきたくじ引きタイム」
「これ楽しいんですよねー」
さっきまでの塩対応はどこへやら。途端に食いつく二人に弥生ちゃんと日向くんは困惑気味だ。
『これ、新聞部伝統のくじ引きなんだって。面白い内容が書いてあるから、皆毎回楽しみにしてるんだ』
「そうなんですか……?」
くじ引きで面白いって想像できない、という顔をしている。
「よし、じゃあ見せてあげよう。こうやって、一つ引いて」
六本の紐の中から、部長が一本引っ張る。
すると、紐の先にメモ帳ぐらいの大きさの紙が四つ折りにされてついてきた。
「えっと、どれどれ…」
それを開いていく部長にみんな近づいて、覗き込む。
【恥ずかしい失敗をしちゃうかも!?Aの人と組むと回避!】
「これって、占いですか?」
「そんな感じなんだけど、これが結構当たるんだよね。前も、駅前でいいことあるって書いてあったからわざわざ行ったら、アイスの新作が売ってたんだ」
「でも、それくらいなら偶然じゃないですか」
弥生ちゃんは疑心暗鬼のようで、訝しげにくじ引きの箱を見つめながら言った。
「僕も最初はそう思ったんですが、今日ガチャを引くといいって書いてあったからゲームのガチャを引いたら、欲しかったのが手に入ったんですよ!」
「それは本物ですね、この占い」
一瞬で手のひら返し。目にも止まらぬ変わり身だ。
「ほら、どんどん引いて!」
鈴花先輩の声で、皆次々に引き出す。
私は……。
【体調に気をつけた方がいいかも!Sの人と組むと助けてくれるよ!】
体調?別に違和感はないけど、どこか悪いのかな、それかこれから悪くなる?
「くるみん、なんだった?」
あ、えっと。心配させたくないのて、体調のことは伏せて、アルファベットだけ答える。
『Sです』
「じゃあ日向くんだね。胡桃ちゃんのサポートお願いできる?」
「えっ、あ、はい。大丈夫です!」
私は喋れないから、インタビューは日向くんに任せる事になってしまう。
両手を合わせて日向くんに口パクで「ごめん」と伝える。すると彼は爽やかな笑顔を浮かべて。
「頑張ります!」
と言ってみせた。ありがたい。
私はその気持ちに応えるように、笑顔で頷いた。