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「それで、ここを押して……」
恵くんがパソコンで編集の仕方を一年に教えている。
一方私達手の空いた3人は、4月分の新聞を作成中だ。
『こんな感じで、どうですか?』
「おっ、いいねーお疲れ」
写真加工を終えて鈴花先輩に報告すると、少し確かめてから目を細めて笑う。
「くるみん、写真うまくなったよね。歴代の中で、一番かもよ?」
『そんなことないですよ!』
私の写真なんて、誰でも撮れるようなものばかりだ。
「でも、工夫したのが伝わってくるし、写真好きなんだなっていうのも見ただけで感じられる。すごいよ」
『ありがとうございます』
プロになんて到底及ばないけれど、自分の工夫したことが分かってもらえるのは本当に嬉しい。
それに、写真が好きだって改めて確認できた気がする。
「よし!あとは部長の文章次第だね」
ふたりで部長のパソコンを覗く。
「部長、完成した?」
「ああ、勿論だ。我ながら例のごとく最高の出来だよ!」
画面にはびっしりと文字が並んでいる。さっきの今でこれだけの文章を書けるなんて、ここだけは自他ともに認める才能と言ってもいいと思う。
しかも、相手にきちんと伝わる簡潔かつ洗練された文章で、質も量も揃っている。
「うん、これだけは部長の自慢できるところだね」
「『だけは』、とはなんだ?俺はいつもどんなときも完璧な自慢の部長だろ?」
「はいはい、そうですねー」
いつものやり取り。ちなみに、基本的に部長が文章、私が写真、鈴花先輩と恵くんがレイアウト担当だ。
「ざっとこんな感じですかね」
その時恵くんの声が聞こえた。
終わった?視線で問いかけると、恵くんは軽く頷く。
「あとは、何の作業を担当するかですよね。レイアウトはもうふたりいるので、文章と写真担当が妥当ですね」
「私、文章を担当させていただ来たいのですが」
弥生ちゃんがはっきりと言った。
「うん、日向さんが良ければ、いいですよ」
「僕はなんでも大丈夫です。頑張ります!」
爽やかな笑顔で日向くんは応じた。
「ありがとうございます」
丁寧にお礼を言って、弥生ちゃんは部長のところに行った。
「えっと、じゃあ胡桃さん、任せても大丈夫そうですか?」
『うん、ありがとう』
「くるみ先輩、よろしくお願いします」
優しい微笑みを向けられて、また胸がどきりと拍動した。
『撮影と加工の基本教えるね』
誤魔化すように説明を始めた。
「難しいですね……」
『慣れれば大丈夫。私も最初はた大変そうだなって思ったけど、意外と大丈夫だったから』
「くるみ先輩は、新聞部に入ってから写真を撮り始めたんですか?」
『ううん。写真は、小さい頃からだけど――』

「よし、完成!」

鈴花先輩の珍しく大きな声が響き渡った。
「ええっ、もうできたんですか?」
「殆ど出来上がってたからね。あとは、組み合わせるだけだったよ。ほら」
鈴花先輩がパソコンの画面が見えるよう、横に移動した。
まず目に入るのは、入学式の記事。
「どっかにひなたんとやよぴも写ってるかもよ?」
「は、恥ずかしいです……」
弥生ちゃんがうつむく。写真は苦手なのかもしれない。
それから毎回恒例のクイズコーナーや、読書部からのおすすめ小説など、一面にポップなデザインでまとまっている。
「うんうん、これで4月の部活も終わりー!」
ぐーっと伸びをする鈴花先輩。
高い位置のポニーテールに結ばれたリボンが揺れた。
「つまり、自由時間ってことですね!」
恵くんはそう言うやいなや、自分の椅子に座ってスマホでなにかしだした。十中八九ゲームだろう。
意外にも、恵くんはかなりのゲーマーなのだ。ただ、家だとあまりやらせてもらえないらしく、いつも部室でやっている。
「え、それってもしかして◯◯ですか?」
ちらりと恵くんの手元を見た弥生ちゃんが突然言った。
「そうですけど……もしかして、弥生さん」
「はい、私もそれやってます!」
「えっ、本当ですか!?やった!
これなかなかやってる人いないんですよ。こんなにおもしろいのに」
「同感です。私も今感動してます」
眼鏡の奥の瞳が今まで見たことないくらいに輝いている。
「今から一緒にやりませんか?」
「はい、ぜひ」
恵くんが弥生ちゃんに負けないくらい嬉しそうな顔で誘い、弥生ちゃんは迷わず頷いた。
「なんだかんだ、皆仲良くなったみたいで良かったな」
部長がいつもより低い声で呟いた。