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日向は約束どおり、教室には来なかった。部活で「明日まで考えておく」と言っていたのが気がかりだけど。
今にも雨が降りそうな、どんよりとした雲が漂っていた。
今日は夕焼けは見えないのに、あの子はわたしに現実を任せた。
きっとこの時間は、夕焼けにかかわらずあの子の唯一の休憩時間でもあるのだろう。
することのなくなったわたしは、窓枠に肘をついて空を見上げた。
雨は、まだ降らない。

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昇降口で、日向くんとたまたま会う。何やら困ったように、空を見上げている。日向くんが出ていってから少し経つけど、今までずっとそうしていたのだろうか?
とんとん、と肩を叩く。
「あっ、くるみ先輩……」
なぜだか気まずそうに日向くんは言ったけど、次の瞬間にはもう笑顔だった。
『どうかしたの?』
「あー、えっと。雨、降るかなって思って」
見ると、確かに空はどんよりと暗い雲で覆われている。
『確かに、降りそうだけど。どうかしたの?傘、持ってないとか?』
「あっ、いえそういうんじゃないんです。気になっただけで。じゃあ帰りますね。さようなら」
軽く手を振って、素早く行ってしまった。