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「もうすぐ夏休みだね」
窓辺で隣に並んだ日向が、唐突に呟く。
「くるみちゃんとも、しばらく会えなくなるな」
「そんなこともないかも」
「え?」
きょとんと首を傾げる。
「夏休みには、新聞部の研修があるからね。泊まりの」
「えっ、聞いてない」
「日向は弥生ちゃんと違って一日空けて部活に入ったから、皆言いわすれてるんじゃないかな」
「ええっ」
大げさに声を上げる。
毎年新聞部は一泊二日の研修が、夏休み中にある。
毎年場所は違い、その場所を取材して特別号を年4回の通常号とは別に発行するのだ。
「でもよかった。これで夏休み中も少しは、くるみちゃんに会えるかも」
楽しみにしているね、と笑ったその顔を見つめる。
あの子が気付いた違和感。わたしも、思い出した。

彼の瞳は、まるで色をわざと写してその裏にあるものを隠しているみたいな、虚構に感じられた。

そうだ、遠足のとき……。
「そうか、もうそんな時間だったんだ」
眩しいほどのオレンジを見上げて、日向はどこか寂しげに呟いた。空を透過するようなその目には、とても深い諦めの色が浮かんでいるように見えた。

確実にあの子の方が日向といた時間が長いからあまり気づかなかったけど。意識してみると、彼には時々、幼い頃のあの子よりも影を見る。
ただ、それを忘れさせてしまうほどの暖かな日向に隠されているだけ。彼の日陰には、いったい何があるのだろうか。