「美味しい!やっぱり私の目に狂いはなかったね」
隣の葵が満足そうにいった。
確かに、ここはカフェなのにメニューがかなり豊富で、ボリューミーなものから軽食、デザート、飲み物も沢山種類があり、迷ってしまうほどだ。
「葵先輩ありがとうございます!」
「いえいえ、またおすすめの飲食店が聞きたかったらいつでも言ってね!私食べるの大好きだから、こういうのは自信あるんだ〜」
ずっと自慢げにしている葵に、他の3人は微笑ましげな笑顔を浮かべた。
『ちょっと、お手洗いに行きたいんだけど』
隣の葵だけに見えるよう、スマホに打つ。
「あ!私たち、ちょっとお手洗い行ってくるね!食べてて」
「了解です!」
元気よく答えたなつくんに比べ、向かいに座っている日向くんはどこか心配そうな顔でこちらを見ていた。
席を立ち、ふたりで店の奥の方へ行く。

出て扉を閉めると、葵は急に私の肩をぽんぽんとしてきた。
「日向くんといい感じじゃん!」
え、そんなことはないけど。
思いつつも、頬は勝手に赤くなる。
「ふふん。安心して、後でちゃんとふたりきりにして上げるから、頑張りなさい!」
『別にいいから、そういうの!』
けど葵は何も聞こえていないように、鏡で髪をチェックし始めた。
「ちょっと髪直してから行くから、先戻ってていいよー」
わかった。私は先に席へ歩いていった。
葵のせいでなんだか日向くんと会うのが気まずい。でもこのあとのふたりきりの時間に、わくわくしている自分もいて。
そんな楽しい気分だったから。
聞こえてきた会話に、普段よりショックを受けてしまったのかもしれない。
「なあ、白川先輩って、なんか怒ってるの?」
「え、なんで?」
「なんも喋らないじゃん。俺、なんか悪いことしたかなって思ってさ」
一瞬にして思考が冷めていく。
そうだ。私は普通じゃない。みんなに当たり前にあるものが、私にはないんだ。こんな風に、普通の人たちに交ざっている私が、とても汚いものに思えた。
「ふたりとも、お待たせー」
その時、葵が戻ってきた。
「おかえりなさいっす」
なつくんは、何事もなかったかのように会話を続けている。
まさか聞かれていたとは思っていないのだろう。
私はそれから、一度も顔を上げられなかった。