「あ!日向いた!」
遊覧船から降りてすぐ、明るい声が、かけられた。
「なつ!こっちの方来てたんだ」
「ああ。海でたそがれようと思ってさ。ほら、見てよ」
やれやれといった調子で両腕を広げる。
「みーんな、デートだよ」
「えっ、まじで!?あんなに大人数でいたのに?」
「そうそう。酷いものだよ」
そういう彼は確か、球技大会の時にかなりみんなから声援を浴びていた「なつくん」だ。
「デート、しようと思えばできるでしょ?」
「俺は、ノリでデートとかしない派なの!ちゃんと、俺が心から好きな相手とじゃなきゃしない!」
「うわ、いまのでファンを全員敵に回したね」
友達と話す日向くんは、いつもより明るくて楽しそうに見えた。
やはり部活のときは緊張しているのだろうか。
「じゃ、私行くから。またねー」
そうこうしているうちに、鈴花先輩とその友達は行ってしまった。
「あっ、そうだ。こちらは部活の先輩の白川胡桃さんと、そのお友達の葵さん」
「よろしく――って、葵先輩じゃないですか!」
「なつくん!こんなところで会えるなんて思わなかったよー!」
葵はすぐになつくんのところにかけていって、楽しそうに話し始める。
ふたりって知り合いだったの?
「多分、バスケ部繋がりじゃないですか?」
日向くんが囁いた。
私が相当驚いた顔をしていたのだろう。葵となつくんも説明してくれる。
「ほら、前に言ったでしょ?お弁当のとき!」
あぁ、かっこいい一年が入ってきたって言ってたあれか。
改めてなつくんを見る。黒髪に男の子らしく程よく焼けた肌。
大きな目と笑ったときの爽やかな笑顔が特徴的な人だ。
確かに、整っていると思うけど。
日向くんのときみたいに、どきりとはしなかった。
そう、これが私の普通なのだ。葵がいくらかっこいいと言っていても、私は客観的に見て、そうだねと言うことしかできない。今までずっとそうだった。
「よろしくです、白川先輩!」
咄嗟にスマホを取り出そうとして、やめる。
初対面の人の前だと、いきなりスマホで会話するのは抵抗がある。
今までに、「無視するのか」と誤解されたことがあったのだ。
どうしても文字ではなさないといけないとき以外は、事情を知らない人とはスマホで会話したくない。私は会釈のみで留めた。
「なつくんは、海で遊びに来たんでしょ?」
「そのつもりだったけど、もう昼時ですね。どっか食べに行きます?」
「そうだね!四人で行こう。案内は任せて!」
葵は胸を張っていった。
「流石用意周到!」
「えへへ、それほどでも〜」
なんて言って、二人は先に歩いていく。
「胡桃ちゃんおいでー」
「日向も早く来ないと置いてくぞ!」
「わかったわかった、今行く!」
きらめく太陽の光の元、日向くんが私を振り返る。
「行きましょう、くるみ先輩!」