「アイスあるけど、食べる?」
「えっ?いいんですか?食べます!」
既に意気投合した葵と鈴花先輩は、甲板にあるベンチに座ってアイスを頬張る。
その光景を横目にみて、私と日向くんは苦笑した。
マイペースなところが、本当に似ている。
呆れながらも、私は手摺を掴んで海を眺めた。
陸はどんどん離れて行って、深い青の厚みが増していく。
さっきの砂浜からの海とは違い、ここから見る海はただ綺麗なだけでなく怖さをも感じさせる。
カメラを取り出して、写真を一枚。
微かに見える陸を画角に入れて、でも海をメインに。光の入り方を意識して。
「先輩は、写真が好きなんですか?」
自分の腕前に満足していると、不意に後ろから声がかかる。振り向くと、いつもよりどこか大人びた笑みを浮かべた日向くんがこちらを見ていた。
いや、海を、見ていた。
『うん、好きだよ』
私は彼の近くへ行き、スマホを見せた。
「…そうなんですね。なにかきっかけがあったんですか?」
『うん。多分、小学校に上がってすぐだと思うんだけど』
日向くんは軽く頷いて、読み終わったことを知らせてくれる。
『お父さんとお母さんにカメラをプレゼントしてもらったんだ。それから、よく撮るようになったかな』 
七歳の手に収まるくらいの、小さなカメラ。わたしはそれを気に入って、毎日のように持ち歩いていたという。
『でも、そのカメラが今どこにあるかわからないんだ。記憶が曖昧で。お母さんは、小さい頃のことだから覚えてなくてもしょうがないって言うんだけど、買ってもらったのに申し訳ないでしょ?だから、絶対思い出したいんだ。捨ててはないと思うんだけどな』
本当にいつの間にかなくなってしまっていたから、手がかりも全くない。
「焦らなくても大丈夫ですよ」
記憶の海に潜ろうとしていた私を、日向くんが呼び止める。
「大事なことは、いつか必ず思い出すものですから。いまは、この海を楽しみましょう!」
屈託のない笑顔で、私を励ましてくれる。
『そうだね。折角だし、先輩のアイス食べに行こっか』
「はい!」