二人で過去を曝け出したあの日から、僕たちは昔からの知り合いかのように『今日12時に〇〇』とだけのメッセージのやり取りだけで待ち合わせをして、僕が夏休みの間、ほとんどを一緒に過ごしていた。
 図書館に行って、お互いに別々に行動をする。けど、読む席は隣。時には僕が勉強をしていて、たまに翠さんが、「こんな問題よく解けるね」と前のめりになる。トト丸さんと公園で遊んで、疲れた帰り道。夕陽に向かって歩きながら、アイスを半分こして食べた。いつもは2個食べれてラッキー、なんて思っていたけれど、案外人と分け合うことも悪くないと思えた。
 
 「あー、あと二週間しかないよ夏休み」
 「二週間も、あるじゃない」
 「すぐだよ。二週間なんてぼーっとしてたらすぐ終わる」
 「じゃあ、ぼーっとしなければいいんじゃない?」
 「そうはいっても、特にすることないんだよなあ」
 「花火大会…行く?」
 「え?一緒に?」
 「そう、一緒に」
 「明後日あるじゃない?ここも、人で埋まるんだろうね」
 「ああ、昔は毎年欠かさずに行ってた」
 「最近は行かないの?」
 「うん、一緒に行く人もいないし、頑張ればマンションの屋上から観れるから」
 「頑張ればってなにそれ」
 
 彼女はくすくすと笑っている。そんな姿を見て、僕も笑う。幸せとは程遠いかもしれない。それでもいい。彼女が彼を思っていても、僕は彼女と過ごせる日々に幸せを感じてしまっている。

 「私、洋太くんとこんなに仲良くなるなんて正直思っていなかったの」
 「え?あ、うんそれは僕も」
 「仲良かったり、知り合い相手だと、ああいうことなかなか言い出せなかったりするじゃない?」

 彼女が言う『ああ言うこと』はきっと『彼』のことに違いない。

 「もう会わないだろうなとか、その人の性格とかよく知らない方が、言いやすいんだよね。まあ、これ一方的に話して終わるみたいなパターンが主流だけど、洋太くんは自分の話もしてくれたもんね。あの時、この子とは巡り会う運命だったんだろうなって思った。大袈裟だけど。だってさ、話していいって言ってくれて、話したことなんて初めてで、泣いちゃったりしてさ、なのに一歩引くどころか、洋太くん一歩前に出て来たもんね。あんなの初めてだったなあ」
 
 彼女の音が弾んでいる。楽しそうに、あの時の僕を思い出して笑っている。

 「花火大会、一緒に行く」
 「お!乗り気になった?」
「うん、楽しみにしてる」
「きっと蒸し暑いよ〜」
 
 彼女の心に『彼』がいてもいいじゃないか。僕との記憶で笑ってくれるなら。
 告白できなくてもいい。僕だけがこの気持ちを知っていればそれでいい。
 呪文のように唱えて、黄色いスカートを見てブレーキかける。間違えて進んでしまわないように、強く強く踏みつける。
 そうだ。これでいい。

 このままでいい。これ以上望むな。