「アッチーーッ! マジかよ……」
地下二十階のボス部屋の扉を開けたソリスは、暗い部屋から噴き出してくる熱気にウンザリして顔を歪めた。
広間の周りの壁に掲げられた魔法のランプがポツポツと灯り始め、部屋の真ん中に展開された巨大魔法陣から大きな壺がせり上がってくる。
「なるほど、あそこから出てくるのね……」
ソリスはじっと壺を見据えながら息を整えると、大剣をしっかりと握り直し、静かなる獣のように瞬発力を秘めて待ち構えた。
刹那、壺からボウッっと轟炎が立ち上り、高い天井を焦がす。
「アチチチ……。お出ましね……」
大剣を立て、刺すような熱線から顔を守りながら炎を見上げる。真紅に揺れる炎はやがて竜巻のように渦を巻き、ソリスに向かって鎌首をもたげた。直後、炎の渦の先から青い二つの目が鋭く光を放ち、咆哮を放つ。それは轟炎大蛇だった。
炎そのものが魔物とは実にやりにくい。魔法生物の厄介さにソリスは顔をゆがめる。
攻略した者の話では、ひたすら水魔法を撃って倒したということらしいが、大剣振るうしか攻撃手段のないソリスには参考にならない話だった。
天井近くから見下ろす轟炎大蛇は時折ぶわっと身体を分裂させて炎の渦を床近くまで噴きおろす。ソリスはそのたびに素早くステップを踏みながら距離を取った。
頭に大剣を届かそうとすると跳び上がるしかないが――――、あまりいい策とは思えない。さりとて、壺に近づこうものならあっという間に焼き殺されそうである。
くっ……。
止めどなく湧いてくる汗をぬぐいながら、ソリスは攻めあぐね、ただ、間合いを取りながら様子を見るしかできない。
轟炎大蛇はチョロチョロと炎の舌を揺らしながらじっとソリスをにらみ、クワッ! と威嚇してきた。
逃げ続けていても熱で体力を奪われるばかりである。
「ええい! ままよ!」
ソリスは覚悟を決めると助走をつけ一気に跳び上がった。その抜群の跳躍力で瞬時に轟炎大蛇の頭に迫るソリス。
「せいやーー!」
大剣を思い切り振り降ろす――――。
刹那、激光が部屋全体を覆いつくした。
うぎゃぁぁぁ!!
全身から炎を吹きながら床に墜落し、ゴロゴロと地面をのたうち回るソリス。
轟炎大蛇が口から放った凄まじい熱線、獄焔轟焦が炸裂したのだ。
ぐあぁぁぁ……。
絶叫を上げながら崩れていくソリスはやがて動かなくなる。
炎が収まると、そこには人であった黒焦げのモノが転がるばかりだった――――。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きに包まれる黒焦げの炭。そして輝きの中から全快してやる気満々のソリスが飛び出してきた。
「やってくれるじゃん! もうその手は喰わないよ!」
ソリスは壺に向かって駆け出した。跳び上がる攻撃が難しい以上、壺を攻撃するしかないのだ。
獄焔轟焦の照準を定めさせないように、ソリスは軽快に左右にステップを踏みながら一気に壺を目指す。
翻弄される轟炎大蛇だったが、一転、ぶわっと身体を分裂させて炎の渦を床近くでしならせ、鞭のようにして一気にフロアを薙ぎ払った。
「マジ!? うぎゃぁぁぁ!」
逃げようとしたソリスだったが、フロア全体をなめるようにして襲い掛かってくる炎の鞭には逃げ場がない。
またも轟火に包まれ、ソリスは激痛の中息絶えていく――――。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きの中から怒りに燃えるソリスが飛び出してきた。壺まであと数歩、一気に行こうと思った瞬間、視界が炎に染まった。
「ぐがぁぁぁぁ! クソがぁぁぁ!!」
轟炎大蛇もバカじゃない。復活の瞬間を狙って獄焔轟焦を放ったのだ。
壺のそばに倒れて燃え上がるソリス。しかし、チートは止まらない。
『レベルアップしました!』
今度は意識が戻ると同時に横っ飛びに跳んで、獄焔轟焦をかわすと、大剣を握り、渾身の力を込めて壺へと振り下ろす。
カーン!
鬼すら一刀両断にする渾身の一撃も、壺には通用しなかった。
大剣は弾かれ、ソリスの手はその衝撃にしびれてしまう。
くぅぅぅ……。
刹那、再度の獄焔轟焦がソリスを火だるまにした。
しかし、ソリスには壺を攻撃する以外道はない。
ひたすら壺を叩き、殺され、の熾烈な応酬が繰り返される。
『レベルアップしました!』
うぎゃぁぁぁ!
『レベルアップしました!』
ぐぁぁぁぁぁ!
『レベルアップしました!』
ひぎぃぃぃぃ!
もう、どのくらいレベルアップしたか分からない応酬の後、ついにその時が訪れる――――。
「こなくそ!!」
馬鹿の一つ覚えのように渾身の一撃を叩きこむソリス。
パーン!!
ついに壺は耐えきれず、盛大な破砕音を響かせながら大剣の刃の前に砕かれた。
ギュワァァァァ!!
轟炎大蛇は苦悶のうずきに身を捩る。その断末魔の悲鳴が空を裂き、徐々に輝きを失っていく炎は遂に白い煙と化し、消え失せていく――――。
後には真紅の光を湛えた魔石が床にコツンと落ち、激闘の終わりを告げた。
「や、やった……のか……?」
殺され続け、頭が上手く働いてくれないソリスはフラフラっとよろけるとそのまま床にペタリと座り込む。
そのまま床に倒れ込み、大の字になったソリスは朦朧としながら天井を見上げた。
そこには黒い煤が多量にこびりつき、不気味な模様を浮かび上がらせている。すべてソリスの身体が燃えた煤なのだ。
「へぇ? ははっ……」
ソリスは自分の死の証拠がベットリとこびりついた天井に苦笑し、乾いた笑いを響かせた。
地下二十階のボス部屋の扉を開けたソリスは、暗い部屋から噴き出してくる熱気にウンザリして顔を歪めた。
広間の周りの壁に掲げられた魔法のランプがポツポツと灯り始め、部屋の真ん中に展開された巨大魔法陣から大きな壺がせり上がってくる。
「なるほど、あそこから出てくるのね……」
ソリスはじっと壺を見据えながら息を整えると、大剣をしっかりと握り直し、静かなる獣のように瞬発力を秘めて待ち構えた。
刹那、壺からボウッっと轟炎が立ち上り、高い天井を焦がす。
「アチチチ……。お出ましね……」
大剣を立て、刺すような熱線から顔を守りながら炎を見上げる。真紅に揺れる炎はやがて竜巻のように渦を巻き、ソリスに向かって鎌首をもたげた。直後、炎の渦の先から青い二つの目が鋭く光を放ち、咆哮を放つ。それは轟炎大蛇だった。
炎そのものが魔物とは実にやりにくい。魔法生物の厄介さにソリスは顔をゆがめる。
攻略した者の話では、ひたすら水魔法を撃って倒したということらしいが、大剣振るうしか攻撃手段のないソリスには参考にならない話だった。
天井近くから見下ろす轟炎大蛇は時折ぶわっと身体を分裂させて炎の渦を床近くまで噴きおろす。ソリスはそのたびに素早くステップを踏みながら距離を取った。
頭に大剣を届かそうとすると跳び上がるしかないが――――、あまりいい策とは思えない。さりとて、壺に近づこうものならあっという間に焼き殺されそうである。
くっ……。
止めどなく湧いてくる汗をぬぐいながら、ソリスは攻めあぐね、ただ、間合いを取りながら様子を見るしかできない。
轟炎大蛇はチョロチョロと炎の舌を揺らしながらじっとソリスをにらみ、クワッ! と威嚇してきた。
逃げ続けていても熱で体力を奪われるばかりである。
「ええい! ままよ!」
ソリスは覚悟を決めると助走をつけ一気に跳び上がった。その抜群の跳躍力で瞬時に轟炎大蛇の頭に迫るソリス。
「せいやーー!」
大剣を思い切り振り降ろす――――。
刹那、激光が部屋全体を覆いつくした。
うぎゃぁぁぁ!!
全身から炎を吹きながら床に墜落し、ゴロゴロと地面をのたうち回るソリス。
轟炎大蛇が口から放った凄まじい熱線、獄焔轟焦が炸裂したのだ。
ぐあぁぁぁ……。
絶叫を上げながら崩れていくソリスはやがて動かなくなる。
炎が収まると、そこには人であった黒焦げのモノが転がるばかりだった――――。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きに包まれる黒焦げの炭。そして輝きの中から全快してやる気満々のソリスが飛び出してきた。
「やってくれるじゃん! もうその手は喰わないよ!」
ソリスは壺に向かって駆け出した。跳び上がる攻撃が難しい以上、壺を攻撃するしかないのだ。
獄焔轟焦の照準を定めさせないように、ソリスは軽快に左右にステップを踏みながら一気に壺を目指す。
翻弄される轟炎大蛇だったが、一転、ぶわっと身体を分裂させて炎の渦を床近くでしならせ、鞭のようにして一気にフロアを薙ぎ払った。
「マジ!? うぎゃぁぁぁ!」
逃げようとしたソリスだったが、フロア全体をなめるようにして襲い掛かってくる炎の鞭には逃げ場がない。
またも轟火に包まれ、ソリスは激痛の中息絶えていく――――。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きの中から怒りに燃えるソリスが飛び出してきた。壺まであと数歩、一気に行こうと思った瞬間、視界が炎に染まった。
「ぐがぁぁぁぁ! クソがぁぁぁ!!」
轟炎大蛇もバカじゃない。復活の瞬間を狙って獄焔轟焦を放ったのだ。
壺のそばに倒れて燃え上がるソリス。しかし、チートは止まらない。
『レベルアップしました!』
今度は意識が戻ると同時に横っ飛びに跳んで、獄焔轟焦をかわすと、大剣を握り、渾身の力を込めて壺へと振り下ろす。
カーン!
鬼すら一刀両断にする渾身の一撃も、壺には通用しなかった。
大剣は弾かれ、ソリスの手はその衝撃にしびれてしまう。
くぅぅぅ……。
刹那、再度の獄焔轟焦がソリスを火だるまにした。
しかし、ソリスには壺を攻撃する以外道はない。
ひたすら壺を叩き、殺され、の熾烈な応酬が繰り返される。
『レベルアップしました!』
うぎゃぁぁぁ!
『レベルアップしました!』
ぐぁぁぁぁぁ!
『レベルアップしました!』
ひぎぃぃぃぃ!
もう、どのくらいレベルアップしたか分からない応酬の後、ついにその時が訪れる――――。
「こなくそ!!」
馬鹿の一つ覚えのように渾身の一撃を叩きこむソリス。
パーン!!
ついに壺は耐えきれず、盛大な破砕音を響かせながら大剣の刃の前に砕かれた。
ギュワァァァァ!!
轟炎大蛇は苦悶のうずきに身を捩る。その断末魔の悲鳴が空を裂き、徐々に輝きを失っていく炎は遂に白い煙と化し、消え失せていく――――。
後には真紅の光を湛えた魔石が床にコツンと落ち、激闘の終わりを告げた。
「や、やった……のか……?」
殺され続け、頭が上手く働いてくれないソリスはフラフラっとよろけるとそのまま床にペタリと座り込む。
そのまま床に倒れ込み、大の字になったソリスは朦朧としながら天井を見上げた。
そこには黒い煤が多量にこびりつき、不気味な模様を浮かび上がらせている。すべてソリスの身体が燃えた煤なのだ。
「へぇ? ははっ……」
ソリスは自分の死の証拠がベットリとこびりついた天井に苦笑し、乾いた笑いを響かせた。