「セ、セリオン……」
ソリスはその小さな味方をハグし、サラサラの金髪にほほを寄せた。
「あー、子龍ちゃんね、パパも上にいるからいいかもね」
シアンはニヤッと笑い、セリオンの肩をポンポンと叩く。
「え!? パ、パパ……?」
驚いたように碧い目を見開くセリオン。
「そうだよ? キミは上の世界からやってきたのさ。良く知らないけど地球で成人まで過ごすのが龍族の掟だとか何とか……。あ、言っちゃマズかった……かな……」
シアンは失敗したという顔をして顔をゆがめた。
「そ、そうなんだ……。パパ……」
言葉にできない感情がセリオンの喉をつまらせ、長い睫毛に覆われた瞳を伏せた。
ソリスは胸に広がる切なさを抑えきれず、震えるセリオンを優しくその腕に包み込んだ。どんな事情があるか分からないが、家族と離れ一人でずっと暮らすことの寂しさは相当のものがあるはずだった。
震えが収まるのを待ってソリスはセリオンの青い瞳をのぞきこむ。
「どうする? 行く……?」
しばらく口を結んでいたセリオンだったが、決意を秘めた瞳でソリスを見上げた。
「行く……行くよ! 僕の成長をパパに観てもらうんだ!」
セリオンはギュッとこぶしを握って見せる。
「オッケー! じゃぁすぐに出発! そこの二人は後方支援。ミッションが成功できるかどうかは君らにかかってる。いいね?」
ニヤッと笑ったシアンは、極薄のタブレットを二枚取り出し、フィリアに渡した。
「ま、任せとき!」「わ、わかりましたえ」
テロリストの拠点を叩くなど、本来初心者がやるようなものじゃない特級の任務である。二人は責任の重さにビビりながらも気丈に返す。
「よーし! タブレットの中にテロリストの通信履歴がある。そこからアジトの位置を割り出してソリスと子龍ちゃんに伝えること。奴らは同じところには長くいない。制限時間は二十分。スタート!」
「に、ニ十分やて!?」「ひぃぃぃ!」
二人はあわててタブレットをパシパシと叩き始める。
「キミらは早く乗った! 急いで! 急いで!」
シアンはソリスとセリオンを中に押し込めると、出入り口の穴を閉じた。
ヴゥン……。
「ふぅ……。行ってらっしゃーい!」
シアンはニヤリと悪い顔で笑うと、玉ねぎに大きく手を振った。
ゴゴゴゴと地鳴りが鳴り響き、光翼の舟の巨大な船体は黄金色の光に包まれていく。
おぉぉぉ……。うわぁ……。
フィリアとイヴィットが光翼の舟の不思議な変化に目を奪われていると、玉ねぎの表面がペリペリっと剥がれ落ちていく。
え……? おろ……?
その意外な変化に戸惑っている間にも、光翼の舟はさらにペリペリと剥げながら徐々に小さくなっていく。
その直後、中から蓮のつぼみのような小型の玉ねぎが皮を突き破って一気に大空を目指した。
おぉっ! はぁ……。
蓮の蕾は天に向かって猛々しく伸びゆき、雲を突き抜けた瞬間、宇宙の神秘に触れたかのように轟音と共に爆ぜた――――。
漆黒の衝撃波が稲妻のごとく広がり、青空を引き裂いて不穏な影を落とす。それはまるで世界の終焉を告げるかのようにすら見えた。後にはただ光の微粒子だけが残り、キラキラと輝く微粒子が星屑のように渦巻いている。
「たーまやー! 転送完了! きゃははは!」
シアンは楽しそうに笑う。
「し、師匠! 二人で……大丈夫なんやろか?」
フィリアは心配そうにシアンの顔をのぞきこむ。
「おいおい、キミはあの二人を過小評価しているゾ? あの二人なら大丈夫。僕の長い経験から言ってもバッチリ太鼓判だよ?」
「そ、そうなんや……」
「何しろ、死んでもちゃんと生き返るんだから! きゃははは!」
その無責任に笑う姿にフィリアは眉をひそめ、イヴィットと顔を見合わせる。
「それよりアジトの位置は割り出せたの?」
「い、今やってるとこや!」
フィリアは慌ててタブレットに流れる文字を必死に目で追った。
◇
うわぁぁぁ! おぉぉぉぉ!
ソリスとセリオンは光翼の舟の中の不思議な無重力空間でクルクルと回る身体を持て余した。金属が爆ぜるような不思議な音があちこちから響き、照明は不安定に明滅する。
世界を渡ること、それは星と星を渡る以上に複雑なプロセスが必要なのだろう。二人はお互いしがみつきあいながらギュッと目をつぶり、時を待った。
ヴゥン……。
やがて、不思議な電子音が響くと同時にやってくる重力――――。
おわぁ! ひぃ!
二人は柔らかい床に墜落してトランポリンに落ちたように何度か弾んだ。音は鳴りやみ、静寂が訪れる。
「ふはぁ……。セリオン、大丈夫?」
ソリスはサラサラとした金髪をなでながらセリオンの可愛い顔をのぞきこむ。
「うん! 着いた……のかな?」
セリオンは嬉しそうに青い瞳を輝かせた。
「そう……、みたいね?」
ソリスは恐る恐る船内を見回す。すると、出入り口がグググっと大きく広がり始めているのが見えた。その向こうからまばゆい黄金色の光が差し込んでくる。
「えっ……、ここは……?」
慌ててドアの外をのぞきこむソリス――――。
目の前に広がる光景は、まるで神々の庭園のようだった。真っ青な青空のもと、果てしなく続く黄金の花の絨毯が、陽光を浴びて煌めき、ソリスは思わず息をのむ。
よく見ると、ネモフィラのような背の低い花の花びらがまるで金箔でできているように陽の光をキラキラと反射しているようだ。
「うわぁ……、綺麗……」
セリオンも一緒になってのぞきこんで、思わずその光景に圧倒される。
青空のもと、盛り上がった丘陵は一面金色に輝き、さわやかな風が黄金の輝くウェーブを作りながら渡っていく。
ソリスはその小さな味方をハグし、サラサラの金髪にほほを寄せた。
「あー、子龍ちゃんね、パパも上にいるからいいかもね」
シアンはニヤッと笑い、セリオンの肩をポンポンと叩く。
「え!? パ、パパ……?」
驚いたように碧い目を見開くセリオン。
「そうだよ? キミは上の世界からやってきたのさ。良く知らないけど地球で成人まで過ごすのが龍族の掟だとか何とか……。あ、言っちゃマズかった……かな……」
シアンは失敗したという顔をして顔をゆがめた。
「そ、そうなんだ……。パパ……」
言葉にできない感情がセリオンの喉をつまらせ、長い睫毛に覆われた瞳を伏せた。
ソリスは胸に広がる切なさを抑えきれず、震えるセリオンを優しくその腕に包み込んだ。どんな事情があるか分からないが、家族と離れ一人でずっと暮らすことの寂しさは相当のものがあるはずだった。
震えが収まるのを待ってソリスはセリオンの青い瞳をのぞきこむ。
「どうする? 行く……?」
しばらく口を結んでいたセリオンだったが、決意を秘めた瞳でソリスを見上げた。
「行く……行くよ! 僕の成長をパパに観てもらうんだ!」
セリオンはギュッとこぶしを握って見せる。
「オッケー! じゃぁすぐに出発! そこの二人は後方支援。ミッションが成功できるかどうかは君らにかかってる。いいね?」
ニヤッと笑ったシアンは、極薄のタブレットを二枚取り出し、フィリアに渡した。
「ま、任せとき!」「わ、わかりましたえ」
テロリストの拠点を叩くなど、本来初心者がやるようなものじゃない特級の任務である。二人は責任の重さにビビりながらも気丈に返す。
「よーし! タブレットの中にテロリストの通信履歴がある。そこからアジトの位置を割り出してソリスと子龍ちゃんに伝えること。奴らは同じところには長くいない。制限時間は二十分。スタート!」
「に、ニ十分やて!?」「ひぃぃぃ!」
二人はあわててタブレットをパシパシと叩き始める。
「キミらは早く乗った! 急いで! 急いで!」
シアンはソリスとセリオンを中に押し込めると、出入り口の穴を閉じた。
ヴゥン……。
「ふぅ……。行ってらっしゃーい!」
シアンはニヤリと悪い顔で笑うと、玉ねぎに大きく手を振った。
ゴゴゴゴと地鳴りが鳴り響き、光翼の舟の巨大な船体は黄金色の光に包まれていく。
おぉぉぉ……。うわぁ……。
フィリアとイヴィットが光翼の舟の不思議な変化に目を奪われていると、玉ねぎの表面がペリペリっと剥がれ落ちていく。
え……? おろ……?
その意外な変化に戸惑っている間にも、光翼の舟はさらにペリペリと剥げながら徐々に小さくなっていく。
その直後、中から蓮のつぼみのような小型の玉ねぎが皮を突き破って一気に大空を目指した。
おぉっ! はぁ……。
蓮の蕾は天に向かって猛々しく伸びゆき、雲を突き抜けた瞬間、宇宙の神秘に触れたかのように轟音と共に爆ぜた――――。
漆黒の衝撃波が稲妻のごとく広がり、青空を引き裂いて不穏な影を落とす。それはまるで世界の終焉を告げるかのようにすら見えた。後にはただ光の微粒子だけが残り、キラキラと輝く微粒子が星屑のように渦巻いている。
「たーまやー! 転送完了! きゃははは!」
シアンは楽しそうに笑う。
「し、師匠! 二人で……大丈夫なんやろか?」
フィリアは心配そうにシアンの顔をのぞきこむ。
「おいおい、キミはあの二人を過小評価しているゾ? あの二人なら大丈夫。僕の長い経験から言ってもバッチリ太鼓判だよ?」
「そ、そうなんや……」
「何しろ、死んでもちゃんと生き返るんだから! きゃははは!」
その無責任に笑う姿にフィリアは眉をひそめ、イヴィットと顔を見合わせる。
「それよりアジトの位置は割り出せたの?」
「い、今やってるとこや!」
フィリアは慌ててタブレットに流れる文字を必死に目で追った。
◇
うわぁぁぁ! おぉぉぉぉ!
ソリスとセリオンは光翼の舟の中の不思議な無重力空間でクルクルと回る身体を持て余した。金属が爆ぜるような不思議な音があちこちから響き、照明は不安定に明滅する。
世界を渡ること、それは星と星を渡る以上に複雑なプロセスが必要なのだろう。二人はお互いしがみつきあいながらギュッと目をつぶり、時を待った。
ヴゥン……。
やがて、不思議な電子音が響くと同時にやってくる重力――――。
おわぁ! ひぃ!
二人は柔らかい床に墜落してトランポリンに落ちたように何度か弾んだ。音は鳴りやみ、静寂が訪れる。
「ふはぁ……。セリオン、大丈夫?」
ソリスはサラサラとした金髪をなでながらセリオンの可愛い顔をのぞきこむ。
「うん! 着いた……のかな?」
セリオンは嬉しそうに青い瞳を輝かせた。
「そう……、みたいね?」
ソリスは恐る恐る船内を見回す。すると、出入り口がグググっと大きく広がり始めているのが見えた。その向こうからまばゆい黄金色の光が差し込んでくる。
「えっ……、ここは……?」
慌ててドアの外をのぞきこむソリス――――。
目の前に広がる光景は、まるで神々の庭園のようだった。真っ青な青空のもと、果てしなく続く黄金の花の絨毯が、陽光を浴びて煌めき、ソリスは思わず息をのむ。
よく見ると、ネモフィラのような背の低い花の花びらがまるで金箔でできているように陽の光をキラキラと反射しているようだ。
「うわぁ……、綺麗……」
セリオンも一緒になってのぞきこんで、思わずその光景に圧倒される。
青空のもと、盛り上がった丘陵は一面金色に輝き、さわやかな風が黄金の輝くウェーブを作りながら渡っていく。