翌日、早速家を建てることにした三人。
隣の空き地の上空には、イヴィットがデジタルな操作で創り出した巨大な二階建てロッジがフワフワと浮かんでいる。
「はい、おろしますえ?」
モスグリーンのチュニック姿のイヴィットは、眉間にしわを寄せながらいつになく真剣な表情で両腕をロッジに向け、ゆっくりと下ろしていく。
「ハイ! オーライ、オーライ! あっ、もうちょっと奥やで!」
フィリアは横から眺め、基礎にしっかりと下りるように調整している。
「ほな、いきますえ? それーー!」
轟音と共に大地が揺れ、土煙がゆったりと立ち上る中、神秘の花園に立派なロッジが立ち上がった。
「おぉぉぉ!」「いいね、いいね!」「すごーい!」
湧き上がる歓声。
古の巨木から切り出されたかのような太い丸太が支える大きな切妻屋根が威風堂々と空を覆っている。壁もまた森の豊かさを感じさせる立派な丸太が組み合わされてできていた。そこから漂う芳醇なヒノキの香りは、まるで森の精霊たちの歓迎の調べのように、みんなの心を包み込む。
「いやぁ、最初っからこんな立派な建物を建てられるなんて才能あるわ……」
ソリスはロッジを見上げながらポンポンとイヴィットの肩を叩いた。物体をデータから顕現させる方法はシアンから教わってはいたものの、こんな巨大な建造物をいきなり生み出すことはそんな簡単な事ではない。
「せっかくのスローライフやろ? 精を出しましたわ」
はんなりとほほ笑み、得意げなイヴィット。
「すごいなぁ……。これ、どないやるん?」
フィリアはポカンと口を開けながら首をかしげた。
「ふふっ、フィリアはまだまだやね。ちゃんと情報理論学んどはったんかしら?」
ちょっと意地悪な顔でイヴィットは笑う。
「もー、イヴィットまでそないなこと言うん?」
フィリアは口をとがらせる。
「イヴィットさん! すごいよぉ!」
セリオンは目をキラキラ輝かせてイヴィットの手をとった。
「こ、こないなもん、どうってことおへん」
イヴィットはほほを赤らめてうつむく。あまり褒められ慣れてないイヴィットには純粋なセリオンの言葉が凄く刺さったようだった。そんな微笑ましい様子にソリスはニッコリと笑う。
「二階はお部屋が三つあって、わてらの寝室になってはりますわ」
「えー、三つ? 僕のは?」
セリオンは悲しそうに眉をひそめた。
「あらまあ? セリオンもほしゅうなったん?」
イヴィットは困ったように首をかしげる。
「せやったら、うちと一緒に寝よか? フハハハ」
フィリアは冗談を言いながら笑ってセリオンの肩を叩いた。
しかし、セリオンはタタッとソリスの陰に隠れると、
「僕はおねぇちゃんと寝るの!」
と言って、ソリスの手をギュッと握った。
「えっ? 私……?」
「え? ソリス殿……」「……」
ソリスはフィリアとイヴィットから冷たい視線を浴び、オロオロとしてしまう。
もちろん可愛いセリオンと一緒に寝られたら素敵だとは思うものの、二人の手前うかつには口にできない。
その時だった――――。
『ヴィーッ! ヴィーッ! 緊急事態発生! 衝撃に備えよ!』
持っていたスマホたちが一斉に鳴り響く。
「な、何これ!?」
「訓練……やろか……?」
「訓練ちゃうわ、逃げはらんと!」
「逃げるって……どこへ?」
ソリスは辺りを見回すが、シェルターがある訳でもなく、花畑が広がるばかりで逃げ場所など見当たらない。
「ほな、シールド張ったるわ!」
フィリアは両手をバッと空へ伸ばすと何かをぶつぶつと唱えた。
直後、ヴォン……という電子音と共にシャボン玉のような虹色に光る透明なドームが辺り一帯を覆っていく。
「おぉ! フィリアさんすごぉい!」
セリオンはパチパチと可愛い手で拍手をしてフィリアをたたえる。
「まぁこんなもんやろ」
フィリアが胸を張ってドヤ顔をした時だった。激しい閃光が天を地を一斉に光の洪水に飲み込んだ――――。
「うわぁぁぁ!」「ひぃぃぃ!」「おねぇちゃーん!」
上空のシールドから激しい衝撃音が次々と響き、炎が上がっている。何者かが猛攻を加えてきているようだった。
「襲撃や! アカン! こんなん、ずっとは持たへんわ。逃げな!」
フィリアは丸眼鏡を押さえながら真っ青な顔で叫ぶ。
「退避ルートを構築するわ、待ってて!」
ソリスはスマホを取り出して空間転移の術式の展開準備を進めていく。
しかし、シールドはすでにひび割れ、黒煙が内部に立ちこめ始めていた。
「あきまへん! 間に合わへんえ!」
イヴィットが叫んだ直後、何かがロッジの屋根に直撃した――――。
ズン!
激しい爆発音とともにロッジは崩壊、瓦礫をバラバラと周りに吹き飛ばしながらそのまま一行の方へ倒れ込んでくる。
キャァァァ! うわぁぁぁ!
「危なーい!」
ソリスは急いで倒れ込んでくる太い柱の下まで瞬時に移動した。
ドッセイ!
レベル135の膂力を全開にして何とか支えるソリス。
ひぃぃぃ!
セリオンがソリスにピタッとくっついて震えている。
「みんな大丈夫!?」
ソリスが叫ぶと、土煙がもうもうと立ちこめる瓦礫の山の中から声がする。
「なんやかんや生きとるわ……」「うちも……」
一行は何とか瓦礫の山から逃げ出し、敵の様子を探る。攻撃は一段落し、不気味な静けさが花畑に広がっていた。
隣の空き地の上空には、イヴィットがデジタルな操作で創り出した巨大な二階建てロッジがフワフワと浮かんでいる。
「はい、おろしますえ?」
モスグリーンのチュニック姿のイヴィットは、眉間にしわを寄せながらいつになく真剣な表情で両腕をロッジに向け、ゆっくりと下ろしていく。
「ハイ! オーライ、オーライ! あっ、もうちょっと奥やで!」
フィリアは横から眺め、基礎にしっかりと下りるように調整している。
「ほな、いきますえ? それーー!」
轟音と共に大地が揺れ、土煙がゆったりと立ち上る中、神秘の花園に立派なロッジが立ち上がった。
「おぉぉぉ!」「いいね、いいね!」「すごーい!」
湧き上がる歓声。
古の巨木から切り出されたかのような太い丸太が支える大きな切妻屋根が威風堂々と空を覆っている。壁もまた森の豊かさを感じさせる立派な丸太が組み合わされてできていた。そこから漂う芳醇なヒノキの香りは、まるで森の精霊たちの歓迎の調べのように、みんなの心を包み込む。
「いやぁ、最初っからこんな立派な建物を建てられるなんて才能あるわ……」
ソリスはロッジを見上げながらポンポンとイヴィットの肩を叩いた。物体をデータから顕現させる方法はシアンから教わってはいたものの、こんな巨大な建造物をいきなり生み出すことはそんな簡単な事ではない。
「せっかくのスローライフやろ? 精を出しましたわ」
はんなりとほほ笑み、得意げなイヴィット。
「すごいなぁ……。これ、どないやるん?」
フィリアはポカンと口を開けながら首をかしげた。
「ふふっ、フィリアはまだまだやね。ちゃんと情報理論学んどはったんかしら?」
ちょっと意地悪な顔でイヴィットは笑う。
「もー、イヴィットまでそないなこと言うん?」
フィリアは口をとがらせる。
「イヴィットさん! すごいよぉ!」
セリオンは目をキラキラ輝かせてイヴィットの手をとった。
「こ、こないなもん、どうってことおへん」
イヴィットはほほを赤らめてうつむく。あまり褒められ慣れてないイヴィットには純粋なセリオンの言葉が凄く刺さったようだった。そんな微笑ましい様子にソリスはニッコリと笑う。
「二階はお部屋が三つあって、わてらの寝室になってはりますわ」
「えー、三つ? 僕のは?」
セリオンは悲しそうに眉をひそめた。
「あらまあ? セリオンもほしゅうなったん?」
イヴィットは困ったように首をかしげる。
「せやったら、うちと一緒に寝よか? フハハハ」
フィリアは冗談を言いながら笑ってセリオンの肩を叩いた。
しかし、セリオンはタタッとソリスの陰に隠れると、
「僕はおねぇちゃんと寝るの!」
と言って、ソリスの手をギュッと握った。
「えっ? 私……?」
「え? ソリス殿……」「……」
ソリスはフィリアとイヴィットから冷たい視線を浴び、オロオロとしてしまう。
もちろん可愛いセリオンと一緒に寝られたら素敵だとは思うものの、二人の手前うかつには口にできない。
その時だった――――。
『ヴィーッ! ヴィーッ! 緊急事態発生! 衝撃に備えよ!』
持っていたスマホたちが一斉に鳴り響く。
「な、何これ!?」
「訓練……やろか……?」
「訓練ちゃうわ、逃げはらんと!」
「逃げるって……どこへ?」
ソリスは辺りを見回すが、シェルターがある訳でもなく、花畑が広がるばかりで逃げ場所など見当たらない。
「ほな、シールド張ったるわ!」
フィリアは両手をバッと空へ伸ばすと何かをぶつぶつと唱えた。
直後、ヴォン……という電子音と共にシャボン玉のような虹色に光る透明なドームが辺り一帯を覆っていく。
「おぉ! フィリアさんすごぉい!」
セリオンはパチパチと可愛い手で拍手をしてフィリアをたたえる。
「まぁこんなもんやろ」
フィリアが胸を張ってドヤ顔をした時だった。激しい閃光が天を地を一斉に光の洪水に飲み込んだ――――。
「うわぁぁぁ!」「ひぃぃぃ!」「おねぇちゃーん!」
上空のシールドから激しい衝撃音が次々と響き、炎が上がっている。何者かが猛攻を加えてきているようだった。
「襲撃や! アカン! こんなん、ずっとは持たへんわ。逃げな!」
フィリアは丸眼鏡を押さえながら真っ青な顔で叫ぶ。
「退避ルートを構築するわ、待ってて!」
ソリスはスマホを取り出して空間転移の術式の展開準備を進めていく。
しかし、シールドはすでにひび割れ、黒煙が内部に立ちこめ始めていた。
「あきまへん! 間に合わへんえ!」
イヴィットが叫んだ直後、何かがロッジの屋根に直撃した――――。
ズン!
激しい爆発音とともにロッジは崩壊、瓦礫をバラバラと周りに吹き飛ばしながらそのまま一行の方へ倒れ込んでくる。
キャァァァ! うわぁぁぁ!
「危なーい!」
ソリスは急いで倒れ込んでくる太い柱の下まで瞬時に移動した。
ドッセイ!
レベル135の膂力を全開にして何とか支えるソリス。
ひぃぃぃ!
セリオンがソリスにピタッとくっついて震えている。
「みんな大丈夫!?」
ソリスが叫ぶと、土煙がもうもうと立ちこめる瓦礫の山の中から声がする。
「なんやかんや生きとるわ……」「うちも……」
一行は何とか瓦礫の山から逃げ出し、敵の様子を探る。攻撃は一段落し、不気味な静けさが花畑に広がっていた。