「なんで……私だって分かったの?」
ソリスは恐る恐る聞いてみる。いくら記憶が戻ったとはいえ、記憶の中の自分は少女の姿のはずなのだ。いきなりアラフォー姿で出てきたら普通は分からないだろう。
「え? だって、おねぇちゃんはおねぇちゃんだよ? それに、少し歳とっても僕からしたら年下だもん」
「え……? 年下って?」
ソリスは首を傾げた。自分はアラフォー。少年より年下というのは話が合わない。
「だって僕、来年で五十歳だもん!」
無邪気に手のひらを広げ、ニッコリと笑うセリオン。
は……?
ソリスは唖然とした。今まで少年だと思っていたが、年齢は自分より上なんだそうだ。
「龍族の成人はね、二百歳なんだよ! だから僕はまだまだ子供! えへへ」
セリオンは嬉しそうに笑う。そのキラキラとした笑顔にソリスの心はまるで小鳥のように羽ばたき、言葉にできない感情が胸いっぱいに広がっていく。
「ふふっ、いつまでも子供でもいいわよ?」
ソリスはセリオンの身体をヒョイっと青空に向けて高く持ち上げ、くるりと回った。
「うわぁ! いやだよ、僕は立派な龍になるんだから!」
セリオンは口をとがらせる。
「うふふ、そうね……」
ソリスはセリオンのほほをそっとなでた。宝石のように輝く瞳と天使のような美しい顔、セリオンはまるで絵本から抜け出してきたかのようである。年上とはいえ、その小柄で愛らしい姿に、ソリスの心は温かさで満たされていく。
ソリスは、この愛おしい存在を抱きしめ、優しく頬ずりをした。セリオンは、彼女の魂に光をもたらす、かけがえのない少年なのだ。
◇
「えー、ほな、ソリス殿とセリオン殿の再開を祝うて……カンパーイ!!」
フィリアはワイングラスを掲げる。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」
笑顔の中、チンチン! とグラスの音が部屋に響く。
セリオンとソリスは目を合わせて笑いあう。苦難の日々を乗り越えた今、希望に満ちた未来が目の前に広がっている。大地を耕し、緑豊かな森で獲物を追い、夕暮れ時には暖炉のそばで香り立つ料理を囲んで過ごす日々。あの懐かしい幸せな季節が、再び二人の人生に彩りを添えようとしていた。
カランカラン!
いきなりドアが開く。
「お邪魔するよー!」
見れば翠蛟仙がミスティックサーモンを片手にニヤッと笑ってソリスを見つめている。
「やったぁ!」
セリオンはパタパタと駆け出して大きなサーモンを嬉しそうに受け取った。
「ア、翠蛟仙さん……。もしかして……」
ソリスは翠蛟仙の様子に記憶が残っているニュアンスを感じる。
「そう! 私も記憶残ってるわよー。別に消しておいてもらった方が良かったんだケド?」
瀟洒な青いワンピースに身を包んだ翠蛟仙は肩をすくめながら皮肉たっぷりに言う。
「記憶なかったら……殴り合いからの再開になるけどいいの?」
ソリスはニヤッと笑った。
「あー、嫌だ嫌だ! 冗談よ。あんたみたいなパワーで押すタイプはコリゴリだわ!」
翠蛟仙は美しい顔を歪めながらワイングラスを取り出し、手酌で注いでいく。
「で、どうするんだい? またここに住むのかい?」
グラスをクルクルッと回し、赤ワインの香りを楽しんだ翠蛟仙はソリスに目線を合わせた。
「そうね。やっぱりここの暮らしが最高だもの。たまに緊急呼び出しが来ると思うけど、その時以外はここでスローライフだわ」
「ふぅん、あんた達も?」
翠蛟仙はフィリアとイヴィットの方を向き、ワインを一口含んだ。
「まぁ、しばらくお試しで暮らしてからやな」「そないどすわ」
「ふぅん、また騒がしくなりそうで困っちゃうわ」
翠蛟仙はそう言いながらも口元に浮かぶ微笑みは隠せない。
「素直じゃないわね。ほら、カンパーイ!」
ソリスはひじでチョンチョンと小突きながらグラスを差し出す。
翠蛟仙はジト目でソリスをにらんだが、相好を崩すとグラスを合わせた。
「ふふっ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
「あー! 待って!! 僕も乾杯するの!」
セリオンが口をとがらせながら、キッチンから飛んでくる。
「ふふっ、じゃあもう一回ね! カンパーイ! よろしくぅ!」
ソリスは輪が広がっていく様子に嬉しくなりながらグラスを合わせていった。
「なぁ? この人誰やねん?」
グラスを空けたフィリアが小声で聞いてくるので、ソリスはニヤッと笑うと、
「精霊王さんよ」
と、言ってウインクした。
「せ、精霊王!?」
見開いた目でフィリアはイヴィットと顔を見合わせ、ピクッと眉毛を動かした。知らない間に次々と人脈を広げていたソリスの行動力に二人は感服し、感嘆のため息をついたのだった。
その晩は絶品なミスティックサーモンのアクアパッツァを囲み、夜遅くまでバカな話をして笑いあっていた。
舌を楽しませる珠玉の料理と、心を通わせる仲間たちの存在。ソリスは長く辛い旅路の末に巡り会えた幸福な時間に瞳を潤ませ、感謝の念を込めてゆっくりとうなずく。その表情には、心の奥底から湧き上がる幸せがにじみ出ていた。
ソリスは恐る恐る聞いてみる。いくら記憶が戻ったとはいえ、記憶の中の自分は少女の姿のはずなのだ。いきなりアラフォー姿で出てきたら普通は分からないだろう。
「え? だって、おねぇちゃんはおねぇちゃんだよ? それに、少し歳とっても僕からしたら年下だもん」
「え……? 年下って?」
ソリスは首を傾げた。自分はアラフォー。少年より年下というのは話が合わない。
「だって僕、来年で五十歳だもん!」
無邪気に手のひらを広げ、ニッコリと笑うセリオン。
は……?
ソリスは唖然とした。今まで少年だと思っていたが、年齢は自分より上なんだそうだ。
「龍族の成人はね、二百歳なんだよ! だから僕はまだまだ子供! えへへ」
セリオンは嬉しそうに笑う。そのキラキラとした笑顔にソリスの心はまるで小鳥のように羽ばたき、言葉にできない感情が胸いっぱいに広がっていく。
「ふふっ、いつまでも子供でもいいわよ?」
ソリスはセリオンの身体をヒョイっと青空に向けて高く持ち上げ、くるりと回った。
「うわぁ! いやだよ、僕は立派な龍になるんだから!」
セリオンは口をとがらせる。
「うふふ、そうね……」
ソリスはセリオンのほほをそっとなでた。宝石のように輝く瞳と天使のような美しい顔、セリオンはまるで絵本から抜け出してきたかのようである。年上とはいえ、その小柄で愛らしい姿に、ソリスの心は温かさで満たされていく。
ソリスは、この愛おしい存在を抱きしめ、優しく頬ずりをした。セリオンは、彼女の魂に光をもたらす、かけがえのない少年なのだ。
◇
「えー、ほな、ソリス殿とセリオン殿の再開を祝うて……カンパーイ!!」
フィリアはワイングラスを掲げる。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」
笑顔の中、チンチン! とグラスの音が部屋に響く。
セリオンとソリスは目を合わせて笑いあう。苦難の日々を乗り越えた今、希望に満ちた未来が目の前に広がっている。大地を耕し、緑豊かな森で獲物を追い、夕暮れ時には暖炉のそばで香り立つ料理を囲んで過ごす日々。あの懐かしい幸せな季節が、再び二人の人生に彩りを添えようとしていた。
カランカラン!
いきなりドアが開く。
「お邪魔するよー!」
見れば翠蛟仙がミスティックサーモンを片手にニヤッと笑ってソリスを見つめている。
「やったぁ!」
セリオンはパタパタと駆け出して大きなサーモンを嬉しそうに受け取った。
「ア、翠蛟仙さん……。もしかして……」
ソリスは翠蛟仙の様子に記憶が残っているニュアンスを感じる。
「そう! 私も記憶残ってるわよー。別に消しておいてもらった方が良かったんだケド?」
瀟洒な青いワンピースに身を包んだ翠蛟仙は肩をすくめながら皮肉たっぷりに言う。
「記憶なかったら……殴り合いからの再開になるけどいいの?」
ソリスはニヤッと笑った。
「あー、嫌だ嫌だ! 冗談よ。あんたみたいなパワーで押すタイプはコリゴリだわ!」
翠蛟仙は美しい顔を歪めながらワイングラスを取り出し、手酌で注いでいく。
「で、どうするんだい? またここに住むのかい?」
グラスをクルクルッと回し、赤ワインの香りを楽しんだ翠蛟仙はソリスに目線を合わせた。
「そうね。やっぱりここの暮らしが最高だもの。たまに緊急呼び出しが来ると思うけど、その時以外はここでスローライフだわ」
「ふぅん、あんた達も?」
翠蛟仙はフィリアとイヴィットの方を向き、ワインを一口含んだ。
「まぁ、しばらくお試しで暮らしてからやな」「そないどすわ」
「ふぅん、また騒がしくなりそうで困っちゃうわ」
翠蛟仙はそう言いながらも口元に浮かぶ微笑みは隠せない。
「素直じゃないわね。ほら、カンパーイ!」
ソリスはひじでチョンチョンと小突きながらグラスを差し出す。
翠蛟仙はジト目でソリスをにらんだが、相好を崩すとグラスを合わせた。
「ふふっ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
「あー! 待って!! 僕も乾杯するの!」
セリオンが口をとがらせながら、キッチンから飛んでくる。
「ふふっ、じゃあもう一回ね! カンパーイ! よろしくぅ!」
ソリスは輪が広がっていく様子に嬉しくなりながらグラスを合わせていった。
「なぁ? この人誰やねん?」
グラスを空けたフィリアが小声で聞いてくるので、ソリスはニヤッと笑うと、
「精霊王さんよ」
と、言ってウインクした。
「せ、精霊王!?」
見開いた目でフィリアはイヴィットと顔を見合わせ、ピクッと眉毛を動かした。知らない間に次々と人脈を広げていたソリスの行動力に二人は感服し、感嘆のため息をついたのだった。
その晩は絶品なミスティックサーモンのアクアパッツァを囲み、夜遅くまでバカな話をして笑いあっていた。
舌を楽しませる珠玉の料理と、心を通わせる仲間たちの存在。ソリスは長く辛い旅路の末に巡り会えた幸福な時間に瞳を潤ませ、感謝の念を込めてゆっくりとうなずく。その表情には、心の奥底から湧き上がる幸せがにじみ出ていた。