やがて揺れは収まり、薄青い霞の中を静かに滑空していくシャトル――――。
「さぁていよいよ、キミの星へ行くよ!」
シアンはソリスに目配せすると操縦桿をゆっくりと倒していく。
シャトルは大きく弧を描きながら斜め下方へと一気に高度を下げていった。
途中、雲を突き抜けながら豪快に降りていくシャトル。
そして見えてくる澄み通る青の世界――――。
うわぁ……。
まるでエーゲ海の透き通る海のように、どこまでも清廉な青い世界にソリスは声を上げた。
「さぁて、突っ込むよ! 総員衝撃に備えよ! きゃははは!」
シアンは楽しそうに一気に操縦桿を倒した。
うわぁ!
シャトルはほぼ垂直にガスの惑星、海王星の内部目がけて急降下していく。
ズン!
濃密な大気の層に突っ込んだシャトルは、衝撃音を放ちながらさらに奥へと目指して豪快にエンジン音を響かせた。
濃い青の世界に包まれ、やがて漆黒の闇が訪れる――――。
「さーて、そろそろだゾ!」
シアンは画面をパシパシ叩きながら何かを探している。
「おっ、コイツだ。3326番」
シアンは画面をにらみながら操縦桿を操り、進路を目標へと合わせていく。
やがて、遠くの方に何やら淡い光が浮かんでいるのが見えてきた。
「よぉし! 全速逆進!」
ゴォォオォォ!
シアンは碧い瞳をキラッと輝かせながらエンジンを逆噴射し、徐々に速度を落としていく。
やがて視界に現れたのは、まるで黒曜石で作られたかのような漆黒の巨大構造体だった。全長は一キロにも達しようかという圧倒的な存在感を放つ巨体の表面には、幾何学模様の継ぎ目が刻まれ、そこから淡い光が漏れ出している。暗闇の中、静かに漂うその姿に、ソリスは科学技術の枠に収まらない威厳と神秘を感じていた。
うわぁ……。
「ナンバー3326。キミの星のジグラートだよ」
シアンはデリケートに操縦桿を操作しながらソリスを見てニコッと笑った。
「3326……。もしかしてシミュレートされてる星は3000個以上あるの?」
「一万個だね。このジグラートと呼ばれるデータセンターは一万個あるんだ」
「い、一万個……」
ソリスはその圧倒的なスケールに思わず宙を仰いだ。
この海王星の中に、地球は一万個も運用されていたのだ。日本のある地球もソリスの星もそのうちの一つに過ぎなかったのだ。
くはぁ……。
だが、言われてみれば当たり前である。宇宙は出来てから138億年も経っているのだ。その悠久の長い時の中では、技術的に可能な事はすべて試されつくされているのだろう。
ソリスは『五十六億年前にはすでにAIがあった』というシアンの言葉の意味を反芻しながら、近づいてくる巨大構造体を眺めていた。
◇
重い金属音が室内に響き、シャトルはジグラートに接舷した。
「はーい、到着! お疲れちゃん。さて、テロリストちゃんは何やってくれちゃってるのかなぁ……。くふふふ……」
シアンはソリスを抱きかかえ、悪い顔で笑いながらドアを開けた。
一気に流れ込んでくる鋭い冷気。
海王星の気温は氷点下二百度。空気すら液化する超低温のため、断熱構造のある通路もかなり温度が低くなってしまっている。
うわっ!
まるで巨大冷凍庫のような肌を刺す冷気に、ソリスは思わずシアンの腕に顔をうずめた。
「ここ寒いから嫌なんだよね……。何とかしてほしいよ……」
シアンはぼやきながら、タッタッタと通路を走った。
◇
「はい、こんにちはぁ」
シアンはそう言いながらそーっと重厚なドアを開けた。しかし、内部は静まり返っている。
チラチラとあちこちで何かが瞬いているが、特に何の動きも見られなかった。
「うーん、よく分からないなぁ」
シアンはじっと目を凝らし、辺りを見回すが異状は見つからず、脇の照明のスイッチをパシンと叩く。
パァっと明るくなる内部。するとそこに見えてきたのは巨大な円柱がどこまでもずらりと並ぶ壮観な景色だった。
うわぁ……。
円柱には無数の畳サイズのクリスタルの板が挿さり、それが何層も重なって巨大な円柱を構成している。これが地球を創り出しているコンピューターサーバーなのだろう。それが鉄の金網でできた通路の両脇に並んでどこまでも続いて見えた。そしてそれが上にも下にも金網越しに見渡す限り並んでいるのだ。
「このクリスタルの板が光コンピューターで、これ一枚でスーパーコンピューターを超える性能があるんだゾ」
シアンはパシパシと板を叩いてドヤ顔でソリスを見た。
「す、すごいわ……」
地球をシミュレーションするという何とも馬鹿げた話も、この光景を見たら納得せざるを得ない。なるほどここまですれば地球は作れてしまうということだろう。
ソリスはその圧倒的な構造物に気おされ、ふぅと可愛いため息をついた。
「こんなの作るのにどのくらいかかったのかしら……?」
「六十万年だゾ!」
「え……? 五十六億年じゃなく?」
「そう! たったの六十万年しかかかってないんだゾ! くふふふ……」
シアンは含みのある笑いをして、ソリスはその意味を考えてみたが、良く分からなかった。
六十万年も五十六億年もソリスからしたらもう無限の時に感じてしまうのだ。
「さぁていよいよ、キミの星へ行くよ!」
シアンはソリスに目配せすると操縦桿をゆっくりと倒していく。
シャトルは大きく弧を描きながら斜め下方へと一気に高度を下げていった。
途中、雲を突き抜けながら豪快に降りていくシャトル。
そして見えてくる澄み通る青の世界――――。
うわぁ……。
まるでエーゲ海の透き通る海のように、どこまでも清廉な青い世界にソリスは声を上げた。
「さぁて、突っ込むよ! 総員衝撃に備えよ! きゃははは!」
シアンは楽しそうに一気に操縦桿を倒した。
うわぁ!
シャトルはほぼ垂直にガスの惑星、海王星の内部目がけて急降下していく。
ズン!
濃密な大気の層に突っ込んだシャトルは、衝撃音を放ちながらさらに奥へと目指して豪快にエンジン音を響かせた。
濃い青の世界に包まれ、やがて漆黒の闇が訪れる――――。
「さーて、そろそろだゾ!」
シアンは画面をパシパシ叩きながら何かを探している。
「おっ、コイツだ。3326番」
シアンは画面をにらみながら操縦桿を操り、進路を目標へと合わせていく。
やがて、遠くの方に何やら淡い光が浮かんでいるのが見えてきた。
「よぉし! 全速逆進!」
ゴォォオォォ!
シアンは碧い瞳をキラッと輝かせながらエンジンを逆噴射し、徐々に速度を落としていく。
やがて視界に現れたのは、まるで黒曜石で作られたかのような漆黒の巨大構造体だった。全長は一キロにも達しようかという圧倒的な存在感を放つ巨体の表面には、幾何学模様の継ぎ目が刻まれ、そこから淡い光が漏れ出している。暗闇の中、静かに漂うその姿に、ソリスは科学技術の枠に収まらない威厳と神秘を感じていた。
うわぁ……。
「ナンバー3326。キミの星のジグラートだよ」
シアンはデリケートに操縦桿を操作しながらソリスを見てニコッと笑った。
「3326……。もしかしてシミュレートされてる星は3000個以上あるの?」
「一万個だね。このジグラートと呼ばれるデータセンターは一万個あるんだ」
「い、一万個……」
ソリスはその圧倒的なスケールに思わず宙を仰いだ。
この海王星の中に、地球は一万個も運用されていたのだ。日本のある地球もソリスの星もそのうちの一つに過ぎなかったのだ。
くはぁ……。
だが、言われてみれば当たり前である。宇宙は出来てから138億年も経っているのだ。その悠久の長い時の中では、技術的に可能な事はすべて試されつくされているのだろう。
ソリスは『五十六億年前にはすでにAIがあった』というシアンの言葉の意味を反芻しながら、近づいてくる巨大構造体を眺めていた。
◇
重い金属音が室内に響き、シャトルはジグラートに接舷した。
「はーい、到着! お疲れちゃん。さて、テロリストちゃんは何やってくれちゃってるのかなぁ……。くふふふ……」
シアンはソリスを抱きかかえ、悪い顔で笑いながらドアを開けた。
一気に流れ込んでくる鋭い冷気。
海王星の気温は氷点下二百度。空気すら液化する超低温のため、断熱構造のある通路もかなり温度が低くなってしまっている。
うわっ!
まるで巨大冷凍庫のような肌を刺す冷気に、ソリスは思わずシアンの腕に顔をうずめた。
「ここ寒いから嫌なんだよね……。何とかしてほしいよ……」
シアンはぼやきながら、タッタッタと通路を走った。
◇
「はい、こんにちはぁ」
シアンはそう言いながらそーっと重厚なドアを開けた。しかし、内部は静まり返っている。
チラチラとあちこちで何かが瞬いているが、特に何の動きも見られなかった。
「うーん、よく分からないなぁ」
シアンはじっと目を凝らし、辺りを見回すが異状は見つからず、脇の照明のスイッチをパシンと叩く。
パァっと明るくなる内部。するとそこに見えてきたのは巨大な円柱がどこまでもずらりと並ぶ壮観な景色だった。
うわぁ……。
円柱には無数の畳サイズのクリスタルの板が挿さり、それが何層も重なって巨大な円柱を構成している。これが地球を創り出しているコンピューターサーバーなのだろう。それが鉄の金網でできた通路の両脇に並んでどこまでも続いて見えた。そしてそれが上にも下にも金網越しに見渡す限り並んでいるのだ。
「このクリスタルの板が光コンピューターで、これ一枚でスーパーコンピューターを超える性能があるんだゾ」
シアンはパシパシと板を叩いてドヤ顔でソリスを見た。
「す、すごいわ……」
地球をシミュレーションするという何とも馬鹿げた話も、この光景を見たら納得せざるを得ない。なるほどここまですれば地球は作れてしまうということだろう。
ソリスはその圧倒的な構造物に気おされ、ふぅと可愛いため息をついた。
「こんなの作るのにどのくらいかかったのかしら……?」
「六十万年だゾ!」
「え……? 五十六億年じゃなく?」
「そう! たったの六十万年しかかかってないんだゾ! くふふふ……」
シアンは含みのある笑いをして、ソリスはその意味を考えてみたが、良く分からなかった。
六十万年も五十六億年もソリスからしたらもう無限の時に感じてしまうのだ。