中は話に聞いた通り闘技場のような広大な広間となっており、壁沿いの柱列に配置された魔法のランタンが一つずつ火を灯し始め、ゆっくりと神秘的な明かりで空間を満たしていった。
まるで遥か古の魔術が目覚めるかのように、広間の中央で黄金の輝きを放つ魔法陣がゆっくりと姿を現す。その輝きの中心から、まるで大地の怒りを体現するかのように、赤鬼が威風堂々と立ち上がる。その血のように赤い肌、頭部から勇ましく突き出た二本の角は鬼の王者としての誇りを示していた。
「あ、あれが赤鬼でゴザル……か?」
フィリアの心臓が、赤鬼から放たれる威圧的なオーラに震えた。その存在感は、これまで立ち向かってきたどの敵をも凌駕し、まるで暗黒の渦に飲み込まれそうな圧迫感があった。
熱い決意で挑んだボス戦。しかし、目の前に立ちはだかる想像を超えた強敵に、三人の心に恐れの影が忍び寄る。三人の額を浮かぶ冷汗は、内なる動揺の証だった。
「ビビっちゃダメ! あれに勝つの! 私たちはあいつより強い! いいね?」
ソリスはバクンバクンと高鳴る心臓に浮足立ちながらも、フィリアの手をギュッと握り返す。
「私たち……、あれより強い……の?」
すっかり雰囲気にのまれてしまっているイヴィット。
「強い! 勝てる! 華年絆姫は常勝無敗よ? この世界は強いと信じたものが勝つの! 信じて!」
「わ、分かったでゴザル……強い……強い……」「そう、強い……勝てる……」
フィリアもイヴィットもギュッと目をつぶり、ブツブツと自分に暗示をかけていく。
いよいよ三人の人生をかけた命がけのチャレンジが始まる――――。
身長三メートルはあろうかという、巨大な筋肉の塊である赤鬼はいやらしい笑み浮かべ、三人娘を睥睨した。
グフフフ……。
不気味な笑い声が広間に響き渡る――――。
直後、カッと赤く輝く目を見開くと、赤鬼は両手のこぶしを握り、極太の腕の筋肉を誇示しながら咆哮を放つ。
グォォォォ!
部屋の空気がビリビリと震えた。
腹に響く重低音の咆哮に、三人は本能的に恐怖を呼び起こされ、ガクガクとひざが震える。その圧倒的な存在感は、数え切れない冒険者たちの夢と希望を踏みにじってきた証のような、冷徹な自信に満ちていた。
しかし、勝つ。勝たねばならない。華年絆姫が今後も輝き続けるためにはコイツを倒さねばならないのだ。
ソリスは悲痛な覚悟を決め、震えるひざを押さえると自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「行くよ!」
「りょ、了解でゴザル」「は、はい……」
ソリスは前衛として大剣を構えて赤鬼に対峙し、二人は部屋の隅で杖と弓を構え、戦闘態勢に入る。
ズーンズーンと地響きを起こしながらソリスに迫る赤鬼。手に持つ丸太のような重量級の棍棒を軽々と振り回しながらニヤニヤと笑っている。
そんな棍棒は到底受けることはできない。当たったら全身の骨が砕けてしまう。ソリスは攻撃の隙をついて間合いを詰めようと思ったが、想定よりはるかに素早く振り回される棍棒に隙が全く見当たらなかった。
棍棒は近くをかすめるだけでものすごい風が舞う。ソリスは右に左にステップを踏みながら棍棒の間合いから逃げ続けるしかできない。
「くっ! なんて奴だ……」
グワッ!
その時、赤鬼が痛そうに顔をしかめ、うめいた。
イヴィットの矢が飛んできて腕に刺さったのだ。さらに、フィリアのファイヤーボールが飛んできてボディーに炸裂し、辺りに閃光が走る。
「ヨシッ!」
頼もしい援護射撃にソリスは一瞬希望を感じたが、赤鬼はひるむことなく、むしろ怒りを攻撃に込めてさらに鋭く棍棒をソリスめがけて振り下ろす。
「ひぃっ!」
すさまじい速度ですっ飛んでくる棍棒。ソリスは横っ飛びに跳んでギリギリのところで何とかかわし、ゴロゴロと床を転がった。
赤鬼はそんなソリスを鼻で嗤うと、後衛の二人の方へ目標を変える。
「ヤバいでゴザル!」「き、来た……」
青ざめる二人。フィリアは慌てて腕を伸ばし、シールドを展開した。
地響きをたてながら一歩一歩後衛に迫る赤鬼。
ソリスは慌てた。後衛に狙いを移されるというのは前衛失格なのだ。
「お前の相手はこっちだ!」
ソリスはダッシュして赤鬼に向け大きく大剣を振りかぶった。
その瞬間、オーガは後ろも見ずにいきなり棍棒をグルンと振り回す。
へっ……?
気がつけば棍棒は目の前に迫り、ソリスは慌てたがもう間に合わない。
ガッ!
大剣がクルクルと宙を舞い、腕をしたたかに打ち据えられたソリスは苦痛に顔を歪めた。
くぅぅぅ……。
赤鬼は少し振り返り、そんなソリスを鼻で嗤うとフィリアたちへと足を進めた。
完敗だった。近づくことすらできない。この、残酷な力の差の現実にソリスは打ちひしがれ、無念の中叫んだ。
「撤退!! イヴィット、帰還石を!」
「い、今……」
イヴィットがポケットから帰還石を取り出した時だった。
カシャーン!
砕け散ってパラパラと床に飛び散り、氷のように溶けていくシールドのかけら――――。
赤鬼渾身の一撃がシールドを叩き割ったのだ。
「うひぃ!」「きひゃぁ!!」
無防備となってしまった二人の前に立ちはだかる巨大な赤鬼。
目を赤く光らせ、嗜虐的な笑みを浮かべると、大きく棍棒を振りかざした。
「帰還石! 早く!」
「ハイな! あぁっ!!」
イヴィットは恐怖に震える手で帰還石をつかみそこない、床に落としてしまう。
コロコロと床を転がる帰還石――――。
いやぁぁぁぁ! ひぃぃぃ!
直後、無情にも赤鬼の棍棒は凄まじい速度で二人を捉えた。
広間に形容しがたい異様な音が響き渡る――――。
それはまさに絶望の響きだった。
まるで遥か古の魔術が目覚めるかのように、広間の中央で黄金の輝きを放つ魔法陣がゆっくりと姿を現す。その輝きの中心から、まるで大地の怒りを体現するかのように、赤鬼が威風堂々と立ち上がる。その血のように赤い肌、頭部から勇ましく突き出た二本の角は鬼の王者としての誇りを示していた。
「あ、あれが赤鬼でゴザル……か?」
フィリアの心臓が、赤鬼から放たれる威圧的なオーラに震えた。その存在感は、これまで立ち向かってきたどの敵をも凌駕し、まるで暗黒の渦に飲み込まれそうな圧迫感があった。
熱い決意で挑んだボス戦。しかし、目の前に立ちはだかる想像を超えた強敵に、三人の心に恐れの影が忍び寄る。三人の額を浮かぶ冷汗は、内なる動揺の証だった。
「ビビっちゃダメ! あれに勝つの! 私たちはあいつより強い! いいね?」
ソリスはバクンバクンと高鳴る心臓に浮足立ちながらも、フィリアの手をギュッと握り返す。
「私たち……、あれより強い……の?」
すっかり雰囲気にのまれてしまっているイヴィット。
「強い! 勝てる! 華年絆姫は常勝無敗よ? この世界は強いと信じたものが勝つの! 信じて!」
「わ、分かったでゴザル……強い……強い……」「そう、強い……勝てる……」
フィリアもイヴィットもギュッと目をつぶり、ブツブツと自分に暗示をかけていく。
いよいよ三人の人生をかけた命がけのチャレンジが始まる――――。
身長三メートルはあろうかという、巨大な筋肉の塊である赤鬼はいやらしい笑み浮かべ、三人娘を睥睨した。
グフフフ……。
不気味な笑い声が広間に響き渡る――――。
直後、カッと赤く輝く目を見開くと、赤鬼は両手のこぶしを握り、極太の腕の筋肉を誇示しながら咆哮を放つ。
グォォォォ!
部屋の空気がビリビリと震えた。
腹に響く重低音の咆哮に、三人は本能的に恐怖を呼び起こされ、ガクガクとひざが震える。その圧倒的な存在感は、数え切れない冒険者たちの夢と希望を踏みにじってきた証のような、冷徹な自信に満ちていた。
しかし、勝つ。勝たねばならない。華年絆姫が今後も輝き続けるためにはコイツを倒さねばならないのだ。
ソリスは悲痛な覚悟を決め、震えるひざを押さえると自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「行くよ!」
「りょ、了解でゴザル」「は、はい……」
ソリスは前衛として大剣を構えて赤鬼に対峙し、二人は部屋の隅で杖と弓を構え、戦闘態勢に入る。
ズーンズーンと地響きを起こしながらソリスに迫る赤鬼。手に持つ丸太のような重量級の棍棒を軽々と振り回しながらニヤニヤと笑っている。
そんな棍棒は到底受けることはできない。当たったら全身の骨が砕けてしまう。ソリスは攻撃の隙をついて間合いを詰めようと思ったが、想定よりはるかに素早く振り回される棍棒に隙が全く見当たらなかった。
棍棒は近くをかすめるだけでものすごい風が舞う。ソリスは右に左にステップを踏みながら棍棒の間合いから逃げ続けるしかできない。
「くっ! なんて奴だ……」
グワッ!
その時、赤鬼が痛そうに顔をしかめ、うめいた。
イヴィットの矢が飛んできて腕に刺さったのだ。さらに、フィリアのファイヤーボールが飛んできてボディーに炸裂し、辺りに閃光が走る。
「ヨシッ!」
頼もしい援護射撃にソリスは一瞬希望を感じたが、赤鬼はひるむことなく、むしろ怒りを攻撃に込めてさらに鋭く棍棒をソリスめがけて振り下ろす。
「ひぃっ!」
すさまじい速度ですっ飛んでくる棍棒。ソリスは横っ飛びに跳んでギリギリのところで何とかかわし、ゴロゴロと床を転がった。
赤鬼はそんなソリスを鼻で嗤うと、後衛の二人の方へ目標を変える。
「ヤバいでゴザル!」「き、来た……」
青ざめる二人。フィリアは慌てて腕を伸ばし、シールドを展開した。
地響きをたてながら一歩一歩後衛に迫る赤鬼。
ソリスは慌てた。後衛に狙いを移されるというのは前衛失格なのだ。
「お前の相手はこっちだ!」
ソリスはダッシュして赤鬼に向け大きく大剣を振りかぶった。
その瞬間、オーガは後ろも見ずにいきなり棍棒をグルンと振り回す。
へっ……?
気がつけば棍棒は目の前に迫り、ソリスは慌てたがもう間に合わない。
ガッ!
大剣がクルクルと宙を舞い、腕をしたたかに打ち据えられたソリスは苦痛に顔を歪めた。
くぅぅぅ……。
赤鬼は少し振り返り、そんなソリスを鼻で嗤うとフィリアたちへと足を進めた。
完敗だった。近づくことすらできない。この、残酷な力の差の現実にソリスは打ちひしがれ、無念の中叫んだ。
「撤退!! イヴィット、帰還石を!」
「い、今……」
イヴィットがポケットから帰還石を取り出した時だった。
カシャーン!
砕け散ってパラパラと床に飛び散り、氷のように溶けていくシールドのかけら――――。
赤鬼渾身の一撃がシールドを叩き割ったのだ。
「うひぃ!」「きひゃぁ!!」
無防備となってしまった二人の前に立ちはだかる巨大な赤鬼。
目を赤く光らせ、嗜虐的な笑みを浮かべると、大きく棍棒を振りかざした。
「帰還石! 早く!」
「ハイな! あぁっ!!」
イヴィットは恐怖に震える手で帰還石をつかみそこない、床に落としてしまう。
コロコロと床を転がる帰還石――――。
いやぁぁぁぁ! ひぃぃぃ!
直後、無情にも赤鬼の棍棒は凄まじい速度で二人を捉えた。
広間に形容しがたい異様な音が響き渡る――――。
それはまさに絶望の響きだった。