うわぁぁぁ!
大魔導士はその異様な事態に圧倒された。目の前で空間が裂けるという未曾有の事態に直面し、彼の心には深い絶望の予感が押し寄せる。
「マズい! マズいぞ……。あぁぁぁ……」
空間の崩壊は、この世界がその基盤から瓦解することを意味していた。しかし、彼が持つ膨大な魔法の知識を総動員しても、その進行を止める術など思いつかない。絶望と無力感が胸に広がり、彼はただ立ち尽くすことしかできなかった。
ピシッ! ピシッ!
次々と漆黒の球を中心に放射状に走って行く空間の亀裂。大地は裂け、大樹は両断され、遠くの山は斬られて崩壊し、亀裂に囲まれた青空の一部は漆黒の闇へと変わっていった。
うわぁぁぁ! ひぃぃぃぃ!
討伐隊の面々はその未曽有の大災害に逃げ惑うしかできない。
ザシュッ!
大魔導士を貫く空間の亀裂――――。
大魔導士は逃げることもなく、身体を空間のレベルで真っ二つに斬り裂かれ、地面に転がった。
「まさに……、天罰……。嬢ちゃん……すまな……かった……」
こうして女神の祝福と【若化】の呪いの組み合わせは、予想もしなかった世界の崩壊を呼び起こしてしまったのだった。
◇
スローなジャズが静かに流れている――――。
全てから解放されたようなさっぱりとした気分でソリスは目を開いた。
「う……、あ、あれ……?」
寝ぼけまなこで辺りを見回すと、そこは巨大なベッドの上だった。パリッとした気持ちのいい真っ白なシーツの上に、ソリスは丸くなって寝ていたのだ。
「ん……? な、何これ!?」
ソリスは跳びあがるように起き上がる。何と自分の手が白と黒のふさふさの毛に覆われていたのだ。いや、手だけではない、全身が白と黒としま模様、何ならシッポまでついているのだ。
「ど、どういうこと!?」
見回せばモスグリーンの落ち着いた室内にはオシャレなキャビネットが置かれ、その上にはドライフラワーと丸い鏡が壁に飾られている。
ソリスは急いでキャビネットに跳び乗って鏡をのぞきこんだ。
あれ……?
そこには可愛いアメリカンショートヘアの子ネコが顔をのぞかせている。ポワポワとした産毛がまだ残る幼く可愛い子ネコだった。
カリカリと鏡を引っ掻くソリス――――。
「え……? ま、まさか!?」
ソリスは自分の顔を手でなでてみる。
肉球が髭に触れて変な感じが伝わってきた。そう、ソリスは可愛い子ネコになっていたのだった。
「何よこれぇぇぇぇ!!」
可愛い子ネコの声で絶叫するソリス。
しかし、叫ぼうが何しようが子ネコは子ネコである。どうにもならない。
「くぅぅぅぅ……。ここはどこなのよ?」
大魔導士に殺された事までは覚えているが、その後は全く記憶がない。ここは死後の世界で天国かとも思ったが、オシャレな部屋にベッドが一つあるだけ。とても天国とかそういう雰囲気ではなかった。ベッドも巨大だと感じていたのは子ネコだったからで、サイズからしたら普通のシングルベッドだった。
「あの魔導士が王都にでも連れてきたんだわ! 窓から見たらわかるかも……」
ソリスは果敢に明るい日差しの差し込む窓へとジャンプして、レースカーテンを開けた――――。
果たして、目の前に広がっていたのは高層ビルの立ち並ぶ大都会だった。
はぁっ!?
子ネコはクリっとした目を大きく見開き、言葉を失う。
そして、ガラスとコンクリートの巨大なビルの向こうには、巨大な赤い鉄骨の構造体が天を突きそびえているではないか。
「へ……? 東京……タワー?」
青空に向かって高く屹立する真紅のタワー、それは紛れもなく高さ333メートルの巨大な電波塔、東京タワーだった――――。
「な、何なのよこれぇ……」
子ネコは首をゆっくりと振りながら、その破格の大都市の息づく様に圧倒される。石畳と荷馬車の慣れ親しんだ世界とは異なり、アスファルトの太い道をバスやトラックがものすごい速度で駆け抜けていく。その近代的な桁違いの大都市にも圧倒されたが、何よりその巨大な塔が『東京タワー』であることを自分が知っていることに困惑し、動けなくなった。
その時、ソリスの脳裏にいきなり膨大な記憶がよみがえる――――。
オフィスで電話を取り、パソコンのエクセルの数字とにらめっこし、会議で不備を詰められる……。
うっ……。
ソリスは頭を抱えながらよろよろとベッドに飛び降り、丸くなって動かなくなった。
そう、ソリスは昔、とあるベンチャーの東京オフィスで働いていた女性会社員だった。朝から晩まで社長の理想のためにと無理をしながら業務をこなし、ついにある日の朝、ベッドから動けなくなり、そのまま死んでしまったのだ。
「そ、そうだわ……、思い出した……」
子ネコの目に涙が浮かぶ。
会社という組織に人生をささげ、過労で無様にも死んでしまった自分。それは死ぬのを分かって突撃してきた討伐隊の面々の無謀さに重なる。
馬鹿な生き方をしていたのは同じ、討伐隊の面々を馬鹿にするなんて筋違い、自分も愚かな生き方をしていたのだ。
ソリスはポスっとそのフワフワな体をベッドの上に横たえた。
大魔導士はその異様な事態に圧倒された。目の前で空間が裂けるという未曾有の事態に直面し、彼の心には深い絶望の予感が押し寄せる。
「マズい! マズいぞ……。あぁぁぁ……」
空間の崩壊は、この世界がその基盤から瓦解することを意味していた。しかし、彼が持つ膨大な魔法の知識を総動員しても、その進行を止める術など思いつかない。絶望と無力感が胸に広がり、彼はただ立ち尽くすことしかできなかった。
ピシッ! ピシッ!
次々と漆黒の球を中心に放射状に走って行く空間の亀裂。大地は裂け、大樹は両断され、遠くの山は斬られて崩壊し、亀裂に囲まれた青空の一部は漆黒の闇へと変わっていった。
うわぁぁぁ! ひぃぃぃぃ!
討伐隊の面々はその未曽有の大災害に逃げ惑うしかできない。
ザシュッ!
大魔導士を貫く空間の亀裂――――。
大魔導士は逃げることもなく、身体を空間のレベルで真っ二つに斬り裂かれ、地面に転がった。
「まさに……、天罰……。嬢ちゃん……すまな……かった……」
こうして女神の祝福と【若化】の呪いの組み合わせは、予想もしなかった世界の崩壊を呼び起こしてしまったのだった。
◇
スローなジャズが静かに流れている――――。
全てから解放されたようなさっぱりとした気分でソリスは目を開いた。
「う……、あ、あれ……?」
寝ぼけまなこで辺りを見回すと、そこは巨大なベッドの上だった。パリッとした気持ちのいい真っ白なシーツの上に、ソリスは丸くなって寝ていたのだ。
「ん……? な、何これ!?」
ソリスは跳びあがるように起き上がる。何と自分の手が白と黒のふさふさの毛に覆われていたのだ。いや、手だけではない、全身が白と黒としま模様、何ならシッポまでついているのだ。
「ど、どういうこと!?」
見回せばモスグリーンの落ち着いた室内にはオシャレなキャビネットが置かれ、その上にはドライフラワーと丸い鏡が壁に飾られている。
ソリスは急いでキャビネットに跳び乗って鏡をのぞきこんだ。
あれ……?
そこには可愛いアメリカンショートヘアの子ネコが顔をのぞかせている。ポワポワとした産毛がまだ残る幼く可愛い子ネコだった。
カリカリと鏡を引っ掻くソリス――――。
「え……? ま、まさか!?」
ソリスは自分の顔を手でなでてみる。
肉球が髭に触れて変な感じが伝わってきた。そう、ソリスは可愛い子ネコになっていたのだった。
「何よこれぇぇぇぇ!!」
可愛い子ネコの声で絶叫するソリス。
しかし、叫ぼうが何しようが子ネコは子ネコである。どうにもならない。
「くぅぅぅぅ……。ここはどこなのよ?」
大魔導士に殺された事までは覚えているが、その後は全く記憶がない。ここは死後の世界で天国かとも思ったが、オシャレな部屋にベッドが一つあるだけ。とても天国とかそういう雰囲気ではなかった。ベッドも巨大だと感じていたのは子ネコだったからで、サイズからしたら普通のシングルベッドだった。
「あの魔導士が王都にでも連れてきたんだわ! 窓から見たらわかるかも……」
ソリスは果敢に明るい日差しの差し込む窓へとジャンプして、レースカーテンを開けた――――。
果たして、目の前に広がっていたのは高層ビルの立ち並ぶ大都会だった。
はぁっ!?
子ネコはクリっとした目を大きく見開き、言葉を失う。
そして、ガラスとコンクリートの巨大なビルの向こうには、巨大な赤い鉄骨の構造体が天を突きそびえているではないか。
「へ……? 東京……タワー?」
青空に向かって高く屹立する真紅のタワー、それは紛れもなく高さ333メートルの巨大な電波塔、東京タワーだった――――。
「な、何なのよこれぇ……」
子ネコは首をゆっくりと振りながら、その破格の大都市の息づく様に圧倒される。石畳と荷馬車の慣れ親しんだ世界とは異なり、アスファルトの太い道をバスやトラックがものすごい速度で駆け抜けていく。その近代的な桁違いの大都市にも圧倒されたが、何よりその巨大な塔が『東京タワー』であることを自分が知っていることに困惑し、動けなくなった。
その時、ソリスの脳裏にいきなり膨大な記憶がよみがえる――――。
オフィスで電話を取り、パソコンのエクセルの数字とにらめっこし、会議で不備を詰められる……。
うっ……。
ソリスは頭を抱えながらよろよろとベッドに飛び降り、丸くなって動かなくなった。
そう、ソリスは昔、とあるベンチャーの東京オフィスで働いていた女性会社員だった。朝から晩まで社長の理想のためにと無理をしながら業務をこなし、ついにある日の朝、ベッドから動けなくなり、そのまま死んでしまったのだ。
「そ、そうだわ……、思い出した……」
子ネコの目に涙が浮かぶ。
会社という組織に人生をささげ、過労で無様にも死んでしまった自分。それは死ぬのを分かって突撃してきた討伐隊の面々の無謀さに重なる。
馬鹿な生き方をしていたのは同じ、討伐隊の面々を馬鹿にするなんて筋違い、自分も愚かな生き方をしていたのだ。
ソリスはポスっとそのフワフワな体をベッドの上に横たえた。