「おう! なんだ、さっきのガキじゃねーか! こんなところで何やってんだ?」
さっきの髭面の大男が不機嫌そうに声をかけてくる。
ソリスは大きく息をつくと、男を見上げた。
「冒険者になるんです、私」
「は? 冒険者? お前が? できる訳ねーだろ! 冒険者なめんなよ!」
ソリスはウンザリしながら男をにらみ、
「あなたでもできるくらいなんだから大丈夫よ」
と、挑発する。冒険者たるものなめられたら負けなのだ。
「え……? なんて言った……お前……?」
男は目を血走らせ、ソリスに向けてすごんだ。
「子供にちょっかい出してくる、大して強くもないオッサンでもできるんだから、私でもできるって言ったのよ」
ソリスは凄む男を鼻で嗤い、キッと鋭い視線でにらみ返す。
男は激怒した。小娘に馬鹿にされたとあっては沽券にかかわるのだ。
「な、なんだと……。おもしれぇ……。俺がテストしてやる。ギッタンギッタンにしてグッチャングッチャンにしてやる!」
男はギュッと握ったこぶしをソリスの前にグッと出した。パンパンに膨らんだ二の腕には血管が浮かんでいる。
その騒ぎに奥から飛び出してきた受付嬢は焦った。
「バルガスさん! 勝手に進めないでください。あなたはBランクなんですからテストには不向き……」
「Bランク、いいじゃないですか。倒したらAランクですよね?」
ソリスは嬉しそうに微笑む。どうせテストしてもらうなら高ランクでないと困るのだ。
えっ……?
受付嬢は目が点のようになって固まる。華奢な少女がBランク冒険者に挑む、その絶望的なまでの状況に喜ぶ意味が分からなかったのだ。
「はっはっは! 面白れぇ。どこまでその減らず口が叩けるか見ものだな……。来い!」
バルガスはそう言ってアゴで裏の中庭を指し、ズシンズシンと床を揺らしながら歩いていく。
「ふふっ、久しぶりの戦闘は血が騒ぐわ」
ソリスは嬉しそうにチョコチョコと男に着いていった。
「おぉっ! これは面白れぇ。みんな! 見ものだぞ!」「えっ! 何々?」「賭けだ! 賭けをやるぞ! ヒャッホゥ!」
それを見ていたロビーの冒険者たちも、はしゃいでゾロゾロと着いていく。
「えっ! ちょ、ちょっと……。あぁ、どうしよう……」
受付嬢は頭を抱えて宙を仰いだ。
◇
中庭は広く、小ぶりの運動場のようになっており、弓の的や案山子なども無造作に置いてあった。
やじ馬たちは周りを取り囲むようににぎやかに騒いでいる。
「お嬢ちゃんに賭ける奴~!?」「バーカ、そんな奴いるかよ!」
「賭けたら総取りだよー!?」「じゃあ、俺が嬢ちゃんに銅貨一枚!」「そんな小銭ふざけんな!」
ゲラゲラと下品な笑いが広場に響く。
皮鎧姿のバルガスは、広場の真ん中ですらりと剣を抜くと、ザスッ! と剣を地面に突き立て、吠えた。
「クソガキは俺が躾けてやる!」
しかし、ソリスは武器など持っていない。
「ちょっと待ってね……」
ソリスは脇にある物置小屋の中を物色する。かび臭い匂いの中、木刀や弓矢、棍棒などが並んでいる奥の道具箱にメリケンサックがあるのを見つけ、ニヤッと笑った。
「早くしろよ! 武器もねぇくせにつっかかってきやがって、どうしようもねーな!」
鼻で嗤うバルガス。
「おまたせー」
ソリスはチョコチョコと広場に出てくると、青いワンピースのすそをたくし上げ、キュッと結ぶ。そして、メリケンサックを掲げて嬉しそうにバルガスに見せた。
「な、何だそれは……?」
バルガスは怪訝そうな目でメリケンサックを眺める。
「あなたは私のこぶしに倒れるのよ」
ソリスはニヤッと笑うと、メリケンサックを手にはめた。そして筋鬼猿王のように、こぶしを軽く握ると左腕を前に出し、ファイティングポーズをとる。
「は? お、お前、拳闘士……か?」
こぶし一つでBランクの自分に向かってくる九歳の少女に、バルガスはうろたえる。丸腰の少女を斬り殺したとあってはさすがに寝覚めが悪い。
「本職は剣士よ。でも、剣だと殺しちゃいそうだし、ハンデあげるわ」
ソリスはニヤッと笑い、クイックイッと指先で『かかってこい』と合図を出した。
バルガスはギリッと奥歯を鳴らすと剣を高く振りかぶる。
「死ぬのはお前なんだよ! ガキが!!」
バルガスは一気に地面を蹴ると、目にも止まらぬ速さでソリスに迫る。さすがにBランク、その速度は圧倒的だった。刹那、上段から繰り出される鋭い剣筋。ギラリと鈍い光を放ちながら一直線に刀身はソリスへと放たれた――――。
キャァァァ!
受付嬢の悲鳴の中、澄んだ金属音が響きわたる。
キィィィィン!
粉々になった剣の破片が、キラキラと太陽の光に煌めきながらあたりに飛び散っていく。
へ……? は……? え……?
バルガスもやじ馬たちも一体何が起こったのか分からなかった。ソリスはレベル125の驚異的な視力でバルガスの剣筋を見切り、筋鬼猿王ゆずりのカウンター技で剣を粉砕したのだった。
「これで決まりよ!」
次の瞬間、音速を超えたソリスのこぶしが衝撃波を放ちながら、バルガスの胸を撃ち抜く――――。
ズンッ!
鈍い音が中庭に響き、バルガスは目を真ん丸に見開き動かなくなった。
一瞬の静けさの後、ドサッとバルガスは地面に崩れ落ちる。
お、おぉぉぉぉ……。
どよめくやじ馬たち。
ふふっ。
ソリスは満面の笑みを浮かべ、大空に向かって拳を突き上げる。
『女神様、ここから私の輝く生きざまが始まります! 見ててくださいよぉ!!』
眩しい太陽を見上げながら、ソリスは決意のガッツポーズを見せた。
さっきの髭面の大男が不機嫌そうに声をかけてくる。
ソリスは大きく息をつくと、男を見上げた。
「冒険者になるんです、私」
「は? 冒険者? お前が? できる訳ねーだろ! 冒険者なめんなよ!」
ソリスはウンザリしながら男をにらみ、
「あなたでもできるくらいなんだから大丈夫よ」
と、挑発する。冒険者たるものなめられたら負けなのだ。
「え……? なんて言った……お前……?」
男は目を血走らせ、ソリスに向けてすごんだ。
「子供にちょっかい出してくる、大して強くもないオッサンでもできるんだから、私でもできるって言ったのよ」
ソリスは凄む男を鼻で嗤い、キッと鋭い視線でにらみ返す。
男は激怒した。小娘に馬鹿にされたとあっては沽券にかかわるのだ。
「な、なんだと……。おもしれぇ……。俺がテストしてやる。ギッタンギッタンにしてグッチャングッチャンにしてやる!」
男はギュッと握ったこぶしをソリスの前にグッと出した。パンパンに膨らんだ二の腕には血管が浮かんでいる。
その騒ぎに奥から飛び出してきた受付嬢は焦った。
「バルガスさん! 勝手に進めないでください。あなたはBランクなんですからテストには不向き……」
「Bランク、いいじゃないですか。倒したらAランクですよね?」
ソリスは嬉しそうに微笑む。どうせテストしてもらうなら高ランクでないと困るのだ。
えっ……?
受付嬢は目が点のようになって固まる。華奢な少女がBランク冒険者に挑む、その絶望的なまでの状況に喜ぶ意味が分からなかったのだ。
「はっはっは! 面白れぇ。どこまでその減らず口が叩けるか見ものだな……。来い!」
バルガスはそう言ってアゴで裏の中庭を指し、ズシンズシンと床を揺らしながら歩いていく。
「ふふっ、久しぶりの戦闘は血が騒ぐわ」
ソリスは嬉しそうにチョコチョコと男に着いていった。
「おぉっ! これは面白れぇ。みんな! 見ものだぞ!」「えっ! 何々?」「賭けだ! 賭けをやるぞ! ヒャッホゥ!」
それを見ていたロビーの冒険者たちも、はしゃいでゾロゾロと着いていく。
「えっ! ちょ、ちょっと……。あぁ、どうしよう……」
受付嬢は頭を抱えて宙を仰いだ。
◇
中庭は広く、小ぶりの運動場のようになっており、弓の的や案山子なども無造作に置いてあった。
やじ馬たちは周りを取り囲むようににぎやかに騒いでいる。
「お嬢ちゃんに賭ける奴~!?」「バーカ、そんな奴いるかよ!」
「賭けたら総取りだよー!?」「じゃあ、俺が嬢ちゃんに銅貨一枚!」「そんな小銭ふざけんな!」
ゲラゲラと下品な笑いが広場に響く。
皮鎧姿のバルガスは、広場の真ん中ですらりと剣を抜くと、ザスッ! と剣を地面に突き立て、吠えた。
「クソガキは俺が躾けてやる!」
しかし、ソリスは武器など持っていない。
「ちょっと待ってね……」
ソリスは脇にある物置小屋の中を物色する。かび臭い匂いの中、木刀や弓矢、棍棒などが並んでいる奥の道具箱にメリケンサックがあるのを見つけ、ニヤッと笑った。
「早くしろよ! 武器もねぇくせにつっかかってきやがって、どうしようもねーな!」
鼻で嗤うバルガス。
「おまたせー」
ソリスはチョコチョコと広場に出てくると、青いワンピースのすそをたくし上げ、キュッと結ぶ。そして、メリケンサックを掲げて嬉しそうにバルガスに見せた。
「な、何だそれは……?」
バルガスは怪訝そうな目でメリケンサックを眺める。
「あなたは私のこぶしに倒れるのよ」
ソリスはニヤッと笑うと、メリケンサックを手にはめた。そして筋鬼猿王のように、こぶしを軽く握ると左腕を前に出し、ファイティングポーズをとる。
「は? お、お前、拳闘士……か?」
こぶし一つでBランクの自分に向かってくる九歳の少女に、バルガスはうろたえる。丸腰の少女を斬り殺したとあってはさすがに寝覚めが悪い。
「本職は剣士よ。でも、剣だと殺しちゃいそうだし、ハンデあげるわ」
ソリスはニヤッと笑い、クイックイッと指先で『かかってこい』と合図を出した。
バルガスはギリッと奥歯を鳴らすと剣を高く振りかぶる。
「死ぬのはお前なんだよ! ガキが!!」
バルガスは一気に地面を蹴ると、目にも止まらぬ速さでソリスに迫る。さすがにBランク、その速度は圧倒的だった。刹那、上段から繰り出される鋭い剣筋。ギラリと鈍い光を放ちながら一直線に刀身はソリスへと放たれた――――。
キャァァァ!
受付嬢の悲鳴の中、澄んだ金属音が響きわたる。
キィィィィン!
粉々になった剣の破片が、キラキラと太陽の光に煌めきながらあたりに飛び散っていく。
へ……? は……? え……?
バルガスもやじ馬たちも一体何が起こったのか分からなかった。ソリスはレベル125の驚異的な視力でバルガスの剣筋を見切り、筋鬼猿王ゆずりのカウンター技で剣を粉砕したのだった。
「これで決まりよ!」
次の瞬間、音速を超えたソリスのこぶしが衝撃波を放ちながら、バルガスの胸を撃ち抜く――――。
ズンッ!
鈍い音が中庭に響き、バルガスは目を真ん丸に見開き動かなくなった。
一瞬の静けさの後、ドサッとバルガスは地面に崩れ落ちる。
お、おぉぉぉぉ……。
どよめくやじ馬たち。
ふふっ。
ソリスは満面の笑みを浮かべ、大空に向かって拳を突き上げる。
『女神様、ここから私の輝く生きざまが始まります! 見ててくださいよぉ!!』
眩しい太陽を見上げながら、ソリスは決意のガッツポーズを見せた。