「今日は他にどっか行く? それとも言っていたラーメン屋に直行する?」

「まずはラーメン屋へ行こうか。遠いのか?」

「電車で三十分ぐらいかな。でも、人気店だから大分待たなきゃいけないかも」

「待つ? 私は食べられればいいぞ?」

「じゃぁ、行きますか」

 クリスは昨日即席で買った服に着替えていた。靴だけは自前だ。ブーツなので何にでも合うよね。
 黒のシャツに白いワイシャツ、ゆったりめのパンツ。めっちゃシンプルなのに、このハイブランド感。上下で五千円もしてないのに… すごいを通り越してもはや乾杯だ。

「今から電車って言う乗り物に乗るよ」

 駅まで歩きながら電車について話をする。いきなり見たらうれしさでそこで時間が過ぎそうだし。

「昨晩見た馬のない乗り物のことか?」

「車じゃなくて、それよりもっと大きいかな。何百人と乗せて運ぶ乗り物だよ。金属でできてて、メッチャ速いから」

「何百! そんなに乗せて壊れないのか?」

「うん。それも科学技術だよ。魔法がない代わりに人の手と知恵で何百年と培ってきた技術の結晶だよ? 空を飛ぶ金属の乗り物もあるんだから。ほら、あれ!」

 と、ちょうど空を飛んでいる飛行機を指す。クリスは空を見上げて首を傾げている。

「鳥? にしては大きいな。アレのことか?」

「そうだよ。あれも昔の偉い人がつくった乗り物。日々進化してるんだ」

「進化? 出来上がりではないのか?」

「違う違う。あれでも十分なんだけど、もっと便利にって日々研究してるんだよ。人の欲は尽きないからね〜」

「… もっとか。しかし、その欲のおかげでこのような世界になったのだろう? この世界は欲にあふれているな。いい意味でな」

「そうだね。私は便利な社会の恩恵を受けてるけど、半自動ぐらいがちょうどいいかな」

「半自動?」

「うん。勝手にドアが開いたり、勝手に車が走ったり… メッチャ快適なんだけどね、私はある程度自分でしないと、将来目的も意識も曖昧になっちゃいそうに感じてる。ましてや今、地球上から電気がなくなったら、大パニックだよ。あはは」

「私の世界でも魔法に頼り切っている部分はある。しかし、たくましい平民を見ているといつも思う。人の手でできることを魔法が担うのは良いことだが… 貴族は魔法がないと生きてはいけないだろうと。ユーリの危惧は私も感じている」

「そっか、クリスの世界は魔法か。どっちの世界でも課題はあるよ。うん。まっ私が言ってもしょうがないんだけど。って、駅に着いたよ」

 切符売り場で料金表を見る。久しぶりだな、料金見て切符を買うの。

「ユーリ、この機械を操作するのだろう? 私がしてみたいのだがいいか?」

 目がウキウキのクリスは昨晩触りまくったスマホのおかげで電子機器が気に入ったようだ。

「いいよ。じゃぁ、このコインをここに入れて〜」

 うんうんと、子供のようにピッッピッとボタンを押している。楽しそう。こんな些細なことだけど私までうれしくなる。

「買えたぞ! この紙がチケットか!」

「そう、切符ね。じゃぁ、こっち、この機械にその切符を入れて」

「こうか?」

 すっと吸い込んだ切符に呆気を取られている。クリスは眉間に皺を寄せてフリーズした。

「機械にチケットを盗られてしまった… また買わなければ… すまんユーリ、コインをくれないか?」

「あはははは、大丈夫だって。こっち、ここに出てきてるから」

「何! どうなっている?」

「切符を確認したよってこと。だからこのゲートを通っていいの」

「これで入場確認が取れたということか? すばらしい」

 クリスは切符を握りしめまぁまぁでかい声ではしゃぐので、ちょっと恥ずかしい。『イケメン外国人が日本のメトロに興奮してる件』とかYouTubeに上げられそうだな。

「じゃ、電車が来るからね。こっち」

 昨日のドンキを彷彿させる。クリスを引っ張って歩く私。このままちゃんとラーメン屋に辿り着くのか心配だ。