「そんな事言ったって……。じゃあ颯斗、何か話してよ。気分が紛れる話」
「気分が紛れる話? う〜ん、そうだなぁ……」

 私の懇願に彼は腕を組み目を瞑って天井を仰ぐ。しばらくしてパチリと目を開けると、とても真面目な顔をして口を開いた。

「では、質問です!」
「質問?」
「夕立とゲリラ豪雨の違いは何でしょうか?」
「えっ? う〜ん。なんだろう?」

 不意を突かれた私は、思わずフォークを咥えたまま窓を睨む。窓は強い雨粒に打たれて滝のように水が流れ落ちていた。

 最近ゲリラ豪雨ってよく聞くけど、アレって、物凄く激しい雨のことだよね。

 じゃあ、夕立はどうだろう。私の中では夕立もザッと激しめの雨が降る気がするのだが。

 彼は、無言で考えを巡らす私の口からフォークを抜き取ると、ニコニコとしながらパンケーキを一口パクリ。美味しそうにパンケーキを十分に味わってから、回答を催促した。

「答えは分かった?」
「う〜ん。雨の降る長さ……とか? あ〜、でもわかんない!!」

 私は唇を尖らせ頬杖をつく。そんな私に彼はにこやかに声を放つ。
 
「惜しい!!」

 そう言うと勿体つけるかのように、コップに口をつけた。その態度につい気持ちがジリジリとしてしまう。

「で、答えは?」

 その場を楽しむ彼と、先が気になる私。なんだかちぐはぐな二人のような気がするが、これで案外上手くいっている。

 彼は楽しそうにたっぷりと溜めを作り、私がこれ以上は待てないと痺れを切らすギリギリを見計らって口を開いた。

「ゲリラ豪雨と言う言葉をここ数年でよく耳にするようになったけど、実は、予報用語ではないんだ」
「えっ? そうなの?」
「そもそも、気象庁ではゲリラ豪雨という言葉自体が定義されていない。だから『夕立とゲリラ豪雨の違いは何?』と聞かれても、答えるのはとても難しいんだ」
「なにそれ〜!! じゃあ、ゲリラ豪雨ってなんなのよ?」

 彼の言葉に、私はさらに唇を尖らせる。

「ゲリラ豪雨と言う呼び名は、気象庁では定義付けされていないけれど、マスコミや民間の気象予報をする所では、ある程度定義がなされているよ。まず、ゲリラ豪雨は基本的には夕立と同じようなシステムで発生するんだ。上空の大気の状態が不安定で、積乱雲がどこで発生してもおかしくない状況下で起こる。ただ、夕立は数十分で止んで、大きな災害を起こすようなことはないけど、ゲリラ豪雨の場合は激しい雨が一時間以上にわたって降り続き、大きな災害をもたらす恐れがある」