そんなところへタイミング良く店員がパンケーキと飲み物を運んできたので、会話が中断された。思わずホッとため息を吐き、彼に刺激された心をなんとか落ち着ける。

 彼は、いつだって今のように突然私を動揺させる事をサラリと言ってくる。そんな彼の言葉に私は慣れなくて、すぐにドギマギとしてしまう。慌てる私を見て彼は心底楽しんでいるようだった。

 彼を軽く睨みながら、私は少し頬を膨らませ軽く口を尖らせる。恥ずかしさを誤魔化すための小さな抵抗をするのが精一杯。そんな私を楽しそうに見つめてくる視線に、私は勝てない。結局、直球の言葉と視線にノックアウトされてしまう。

「ほら、フルーツとクリームたっぷりのパンケーキ、食べな」

 彼は運ばれてきたパンケーキを一口大に切り分け、それを私の口もとへ運ぶ。思わずパクリと食いつく。フワフワのケーキと甘酸っぱいフルーツ、それから、甘過ぎないクリームが程良いバランスで口の中で混ざり合う。

「んん〜!!」

 目を細めパンケーキを堪能する私を、彼はニコニコと見つめ堪能する。それから、自分も一口パンケーキを口にした。

「ん! 美味い」

 そう言いながらパンケーキのお皿をさりげなく私の方へと押しやる。「残りは、未奈が食べな」という彼の無言の優しさ。

 一緒に美味しいものを楽しんで、だけど、少しだけ私を特別扱いしてくれる。私の好きな物をさり気なく選んでくれる。半分と言いながら、大きい方を私にくれる。そんな彼の愛情表現が私はとても心地良い。

 彼がくれる優しさの分だけ私も返してあげたいと思う。けれど、出来るかどうか分からないので、大きい方を貰ったら必ず彼に一口お返しをする事を密かに決めている。まずは、自分でもう一口。その後、彼の分を切り分けて彼の口もとへと運ぶ。それを彼がパクリ。二人でモグモグと口を動かしつつ、笑みを交わす。直球すぎる言葉にドギマギさせられたことや、赤くした顔を見られたことなんて、すぐに気にならなくなる。それくらい、美味しいものを好きな人と味わう時間は楽しい。

 店内の楽しく明るい雰囲気とは裏腹に、外はいつの間にか暗くなり、私たちが座る席の窓には、沢山の雨粒が打ち付けられている。

「そう言えば、どうして雨が降るって分かったの?」

 カフェに向かって歩いている時に聞いた質問をもう一度彼にしてみた。彼は口にしていたカップをコトリと机に置くと、歩いていた時と同じ答えを返してきた。

「雨の匂いがしたんだ」