快適空間でランチを食べて、今とても話題になっているアニメ映画をたっぷり二時間半堪能して、私たちはようやく太陽の下へ戻って来た。
映画館の空調はやっぱり少し強めだった。すっかり冷えた体を、彼にくっつけて歩く。すると、自転車を押していた彼がピタリと立ち止まった。スンと鼻を鳴らしてから空を見上げる。私もつられて空を見る。相変わらず眩しいくらいの太陽と、水色に白い入道雲がよく映えるいわゆる夏空が広がっていた。
あの雲、綿菓子みたいだなぁと、毎年一度は思う事を今年も考えていると、不意に彼が口を開いた。
「ねぇ、未奈。近くにカフェってないかな?」
私に問いかけたはずなのに、眉を寄せた彼の視線はまだ空に向けられていた。そんな彼を小首を傾げながら見上げる。
「颯斗、もう疲れちゃったの?」
冗談めかしていう私の言葉に、空を見上げたままの彼は上の空で答える。
「そうじゃないけど……」
「コーヒーショップだったら、さっきの映画館にあったよ。緑のマークのチェーン店。戻ってそこに行く?」
「そういう所じゃなくて、カフェがいいな」
「カフェ? 少し先に、赤い看板のバーガーショップもあるけど、そこもダメとか言ったりする?」
「うん。カフェがいい」
彼がこんなに頑なにわがままをいうなんて珍しいなと思いながら、私は、スマートフォンを鞄から取り出すと素早く付近のカフェを検索する。
現在地から、近いところで二件のヒットがあった。先ほど候補としてあげた二つの店ならば、どちらも全国展開をしているチェーン店なので至る所に店舗がある。それなのに、なぜそこではダメなのだろう。
「カフェ、あったよ。この近くだと二つ。ハワイアンカフェと純喫茶みたい。どっちにする?」
スマートフォンの画面から目を離して、彼を見上げると、今度は彼もしっかりと私を見てくれた。
「どっちがここから近い?」
「う〜ん。ハワイアンカフェかなぁ。ここから徒歩五分だって」
「五分か……。まぁ、ぎりぎり間に合うかな……。よし! そこに行こう!」
彼は私のスマートフォンの画面に表示されている地図を素早く見ると、早足で歩き出した。自転車のカラカラという音が早くなる。
彼を追うようにして、私も慌てて歩く。
一体どうしたのだろう。いつもならば、わがままを言うのは私の方で、彼を振りまわすのも私の方。彼はこんなに強引にどこかに行こうとはしない。私は小さな不安を覚えた。
「ね、ねぇ。どうしたの? 何かあったの?」
映画館の空調はやっぱり少し強めだった。すっかり冷えた体を、彼にくっつけて歩く。すると、自転車を押していた彼がピタリと立ち止まった。スンと鼻を鳴らしてから空を見上げる。私もつられて空を見る。相変わらず眩しいくらいの太陽と、水色に白い入道雲がよく映えるいわゆる夏空が広がっていた。
あの雲、綿菓子みたいだなぁと、毎年一度は思う事を今年も考えていると、不意に彼が口を開いた。
「ねぇ、未奈。近くにカフェってないかな?」
私に問いかけたはずなのに、眉を寄せた彼の視線はまだ空に向けられていた。そんな彼を小首を傾げながら見上げる。
「颯斗、もう疲れちゃったの?」
冗談めかしていう私の言葉に、空を見上げたままの彼は上の空で答える。
「そうじゃないけど……」
「コーヒーショップだったら、さっきの映画館にあったよ。緑のマークのチェーン店。戻ってそこに行く?」
「そういう所じゃなくて、カフェがいいな」
「カフェ? 少し先に、赤い看板のバーガーショップもあるけど、そこもダメとか言ったりする?」
「うん。カフェがいい」
彼がこんなに頑なにわがままをいうなんて珍しいなと思いながら、私は、スマートフォンを鞄から取り出すと素早く付近のカフェを検索する。
現在地から、近いところで二件のヒットがあった。先ほど候補としてあげた二つの店ならば、どちらも全国展開をしているチェーン店なので至る所に店舗がある。それなのに、なぜそこではダメなのだろう。
「カフェ、あったよ。この近くだと二つ。ハワイアンカフェと純喫茶みたい。どっちにする?」
スマートフォンの画面から目を離して、彼を見上げると、今度は彼もしっかりと私を見てくれた。
「どっちがここから近い?」
「う〜ん。ハワイアンカフェかなぁ。ここから徒歩五分だって」
「五分か……。まぁ、ぎりぎり間に合うかな……。よし! そこに行こう!」
彼は私のスマートフォンの画面に表示されている地図を素早く見ると、早足で歩き出した。自転車のカラカラという音が早くなる。
彼を追うようにして、私も慌てて歩く。
一体どうしたのだろう。いつもならば、わがままを言うのは私の方で、彼を振りまわすのも私の方。彼はこんなに強引にどこかに行こうとはしない。私は小さな不安を覚えた。
「ね、ねぇ。どうしたの? 何かあったの?」