彼の言葉に私は思わず反論する。

「私だってこの炎天下の中、歩くことになるなんて思わなかったよ。まさか、夏祭りで道路が歩行者天国になってて、バスが運休するなんて思わないじゃん」

 不測の事態を思い返して唇を尖らせる。

「まぁ、リサーチ不足だよね。完全に」
「それはそうだけどさ……。でも、まあいいや。いい穴場見つけちゃったし。帰りにまたさっきの場所、寄ろうよ」

 私が満面の笑みで彼に言うと、呆れ顔が返ってくる。

「別にいいけど、『虫がぁ』とか言って騒がないでよ。夕方の川辺なんて小さい羽虫がたくさん飛んでるんだからね」
「……虫かぁ。それはちょっと嫌だな」

 彼の言葉に私は思わず眉を寄せた。

「まぁ、でもちょっとだけ。きっと夕日が綺麗だと思うんだよね。良くない? 河川越しの夕日。うん。なんか青春っぽい」

 想像をして一人盛り上がっている私にテンションを合わせるわけでもなく、彼は「青春っぽいか?」と首を傾げながらも、分かったと頷いた。

 そんな他愛もない会話をしながら、炎天下の中を湿気に溺れそうになりながら、ようやく目的地の映画館に着く。彼が自転車を止めている間、私は映画告知の大きなポスターを見るともなしに眺めていた。

「お待たせ」

 私の頭にポンと手を置きながら彼が声をかけてくる。隣に並んだ彼は私よりも幾分か背が高いので、並ぶとどうしても見上げる形になる。

「映画、楽しみだな。昨日ネットニュースで見たけど、上映開始からたった三日で百万人突破だって。すごくない?」
「ふ~ん。そうなの。それよりも早く中に入ろ。日差しがやばい」

 私たちのそんな会話をくだらないと思っているのか、それとも私たちの仲の良さにヤキモチでも妬いているのか、太陽がジリジリと私たちを焦がしにかかる。唯一無二の太陽に勝つなんてことは出来るはずもないので、私は頭に置かれた彼の手を取ると、引っ張るようにして建物の中に入る。建物内はしっかりと冷房が効いていて涼しい。思わず、「あ~、快適」と言葉が漏れる。
 
「そういえばさ、そんな格好してて暑くないの?」

 薄手の長袖を着る私を、理解できないと言う顔で見下ろしてくる彼に、私は唇を尖らせる。

「日焼けしたくないんだもの。日焼け止め塗ってるけど、全然効かないし。それに外は暑いけど、電車とか建物の中は寒いからこれで丁度良いの」
「本当に?」
「本当よ」

 そんなどうでもいい会話を経て、いつしか会話はどの店でランチをするかに移っていった。