会計を済ませ店の外へ出る。雨によって少しだけ冷まされた外気は、モワリとしていた。店内との気温差のせいだろう。しかし、湿気を含んだあのジトリとした妙に体に纏わりついてくる空気感はなく、どこかサラリとした感覚に私は思わず伸びをする。

「ん〜、ちょっと過ごしやすくなったんじゃない?」
「そうだね。通り雨があると一気に街が冷やされた感じがするよね」
「街を冷やすか……考えたこともなかったけど、言われてみればそうかも」

 通り雨によって冷やされた街には、雨宿りを終えた人々が徐々に姿を表し始めている。皆、一時の休憩を終え、活動を再開するのだ。私達も太陽の下でのお昼間デートを再開するべく、カラカラと軽い音を奏でる彼の自転車とともにハワイアンカフェを後にした。

「これからどうする? そういえば未奈、ショッピングに行きたいって言ってたよね? 今から行く?」

 傍らを歩く彼がそう問いかけてきたが、私は首を振る。

「ショッピングも良いけど、私、もう一度あそこに行きたい」

 私のリクエストでやってきたのは、昼前に暑さに耐えかねて一時避難をした橋の下。まさか本当に一日に二度も同じ場所へ来ることになるとは思っていなかったであろう彼は少々呆れ顔だ。

「わぁ、やっぱりさっきよりも涼し〜」

 子どものようにはしゃぐ私を、彼が大人びた声で注意する。

「未奈、あまり川には近づくなよ。さっきの雨で、水嵩が増してるんだから」
「ん〜、そう? さっきと変わらなくない?」

 そう言ってフラフラと川辺へ近づこうとする私の隣にやってきた彼が、スッと手を取る。彼と手を繋ぎ川べりに佇む。目の前を流れる川は悠々と流れているように見えるが、橋桁辺りでは先程よりも多くの水飛沫が上がっていた。

「危ないよ」
「ん。気をつける」

 彼の短い言葉に私も短く答えると、彼の手をしっかりと握り直す。

「座ろっか」

 しばらく川を眺めた後、二人並んで土手に腰を下ろす。ちょうど、川の向こうの方の空に虹が出ているのが見えた。

「見て。虹」
「本当だ。じゃあ、今日はこのまま晴れるかな」

 彼はスンと鼻を鳴らしてから空を見上げた。私も彼のように鼻をスンと鳴らしてみた。土臭いような青臭い雨上がりを思わせる匂いが鼻をつく。

 彼にもっと近づきたくて彼の真似をする私は、天気オタクの《《オタク》》なのかもしれない。そんなことを思いながら、隣のオタクに問いかける。

「ねぇ、雨上がりの匂いにも名前ってあるの?」
「ん? もちろん、あるよ」




完 

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『天気オタクと雨宿りカフェ』、完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

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さてさて明日からは、『決戦前夜』が連載開始!
ある勘違いから巻き起こる攻防戦を描いた作品です。
明日の15時をお楽しみに♪