九月って、今日は7月23日だから、あと一ヶ月近くしか陽葵は生きれないということになる。



「一年前から、記憶障害も出始めて。今日あったことを次の日には全部忘れちゃうんだ」


「…え?」


「だから日記をつけてるの。見たところで思い出せないけど、これがあるおかげで私は“向坂陽葵”でいられるから」



ふと、日記帳を握りしめている陽葵の手が震えていることに気づく。


…そうだよな。僕はたった数時間一緒にいただけで陽葵を知った気になっていたけど、陽葵はこのことを初対面の僕に話すだけでも勇気がいったに違いない。


なんでもなさそうに見えるのも、わざとそう見えるように意識しているんだろう。



「…別に、いいんじゃないかな」


「え?」


「余命宣告って、言うほどあんまりあてにならないって聞くよ。実際に余命宣告されてから十年以上生きた人だっているし、なんなら病気が完治した人もいるって聞いたことがある。だから、そう悲観的にならなくていいんじゃないかな。記憶のことだって、たとえば面白い本があったとした時、結末を忘れられるなら何度だって感動を味わえるってことでしょ?そんなの最高じゃん」