「…え?」



陽葵のお母さんが家の中に入るよう促してきて、そのまま二階に連れて行かれる。



「陽葵が過ごしていた部屋よ。陽葵が死んでしまってからも何も手をつけていないから、そのまま残ってる。ここで過ごしていたあの子を見てきてあげて」



陽葵のお母さんにそっと背中を押されて、初めて陽葵の部屋に足を踏み入れる。


陽葵の部屋は女の子らしく薄ピンク色で家具が統一されていて、物も必要最低限なものしか置いていなかった。



ただ目を引かれたのは、ベッドと勉強机周りの壁にたくさんのメモ用紙が貼り付けられていたことだった。



「…“おはよう。一年前の事故で私には昨日の記憶がありません。だからまずはベッド脇にある日記帳を見てね”」



ベッド周りのメモ用紙には陽葵の字で病気のことについての説明や、今日何をするべきなのかが簡潔に書かれていた。


勉強机の方に視線を移すと、そこには“丹波海斗くんを忘れないで”と大きく一言だけその一枚が貼られていた。



メモ用紙に書いてあった通り、初めて会った日に見せてもらった日記帳がベッド脇に置かれていてそれをそっとめくっていく。


内容は他愛もないことばかりで、一行だけの日もあれば美味しかったスイーツについて永遠と書いてある日など、陽葵らしく様々だった。