「はい、これ。濡れたままの服じゃ気持ち悪いでしょ?お父さんのなんだけど、多分海斗くんなら着れると思うから」


「あ、ありがとうございます。わざわざすみません」



濡れたTシャツを着替えていると、陽葵のお母さんがじっと僕を見つめていることに気づく。


なんだかデジャヴだなと思いながら顔を上げると、陽葵のお母さんがハッと我に返ったように作ってくれていたホットココアを渡してくれた。



「あの子のわがままに付き合って、海斗くんもずぶ濡れになっちゃったんでしょ?ごめんなさいね」


「いや…僕も陽葵…さんを止めなかったのも悪いので」


「…陽葵はあなたのことを友達、って言ってたけど、海斗くんはあの子のことを全部知ってるの…?」


「…はい。陽葵と会ったのは一週間くらい前なんですけど、病気のことはその時に聞きました。あと、記憶のことも」


「そうなのね…。記憶障害は一年前からだから、その前の記憶は陽葵の中にはちゃんとあるのよ。…だけど、陽葵は今日したことも感じていることも全部明日には忘れてしまう。海斗くんのことだって…。海斗くんは、そんなあの子と一緒にいて辛くない?」



陽葵のお母さんは僕を心配してくれているんだとわかった。